さくらの営み １【オロチ】

一 いつも通りの朝 ページ1

誰かが私の名前を呼んだ。

A……A……と。

何度も何度も誰かは私の名前を呼び続けた。


「──……？」


何故か目が開かない。

まだ自分は半分眠っているのだろうか。

そろそろお母さんが起こしにくる頃なはずだ。

だけどいくら待てども足音は聞こえず、ぴちょん、ぴちょんと雫が落ちる音が規則的に聞こえた。

頬に当たる異様な冷たさに私は半分眠っていた頭をフル回転させた。

それなのに完全に眠りから覚めることはなかった。

いや、それも違う。

眠りから覚めない訳じゃない。

目が開かない訳じゃない。

だって今私は瞬きをしている。

それなのに暗闇しか見えない。

眠っているから体が動かない？

……それも違う。

腕と足が異様に重い。

まるで手枷足枷をつけられたような。

そんなはずがない。

もしかして夢？

ああ、きっとそうだ。

だって昨日学校から帰って……？

……思い出せない。

家に帰った記憶がない。

まさか現実？


「誰か……いませんか……」


恐る恐る声を出してみる。

声は出るし耳も聞こえる。

ただそれ以外の情報がない。

ぱしゃん、と水たまりを踏んだような音が聞こえた。


「……起きているのか」

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