夜桜語り 2片【オロチ】

夜桜67 ページ17

最後にパパに会ったのはいつだっただろう。

最後に遊んでもらったのはいつだっただろう。

覚えがあるのはお土産話を楽しそうに話す姿ばかり。

最後に抱きしめて貰ったのはいつだっただろう。

本気は知っている。

覚えている。

最後に会ったのは6年前、最後に遊んでもらったのも6年前、最後に抱きしめてもらったのも6年前。

思い出は……全部、全部6年前で止まっている。

だけどそれは仕方ない事などではなく、意図的に望んだことだった。

だって私はいい子だった。

疲れた後は休むのが当然。

私は我慢して当然だろう。

迷惑はかけてはいけないから必死に隠した。

でも心奥底で私は気づいてほしいと願っていた。

手紙より、お土産より、私に気づいてほしかった。

だけどそんな願いは届くことはなく今日までずっと閉じ込めてきた。


「……嫌なこと思い出した」


ある時、突発的に悲しくなって寂しくなって、嫌いに思って……。

それで私は塗りつぶしたことで忘れた。

だけど、ずっとパパだったからずっとずっと嫌いなわけじゃなくて。

ずっとずっとずっと会いたいって思っていた。

小さい頃は一年に何回も帰ってきていたのに今はもう6年も会っていない。

現状を知るのは手紙のみ。


「……A、今日はもう寝たほうがいいだろう」


オロチは写真を取り上げると私をベッドに寝かしつけた。


「……私の事嫌いなのかな」


「だとすればわざわざ手紙を送ってくることはしないだろう」


オロチは私の視界を手で遮った。

つられて私の瞼はゆっくりと落ちていく。

微かな意識の中でおでこに柔らかな温もりを感じた。

夜桜68→←夜桜66

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す