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ひろside
──異変が起きたのは、時間通りに来た電車に乗り込んで数分後のことだった。
「……ひろ、悪い。そっち寄らせて」
「え?」
予想通り、ぎゅうぎゅうに人が入っていた車内。
ちゃっかりドアの近くを確保していたオレに、陵が小さく声をかけてくる。
視界に写った彼の顔は蒼白という言葉がぴったりで、オレは思わず目を瞬いた。
「っ酔った?」
「なんか、香水きつくて」
慌てて陵と場所を入れ替わる。
ぎゅうぎゅうの車内では、それだけでも大変な作業。
入れ替わると確かに、すぐ近くにいるお姉さんから香水の匂いがするのを感じた。
「…?そんなキツいかこれ?」
ただ陵の言う「キツい」にはどうしても納得いかなくて、思わず小さく呟く。
そんなに強い匂いじゃなくて、どっちかって言うとふんわり優しい香りだ。
大半の男は好きだと言うくらいのほのかな香り。…これが、キツい?
「…っ、」
でも陵の顔はやっぱり真っ白で、時折ふらりと危なっかしく頭が揺れる。
彼がごくりと生唾を飲み込んだのを見て、オレはカバンからビニール袋を取り出した。
「次、降りるぞ。無理そうだったら使え」
「…絶対つかわない…」
そんなことを言いつつも、袋はしっかり受け取る陵。
オレもたぶん使わないだろうとは思っているけれど、万が一だ。
満員電車で袋なしで決壊したらそれこそやばい。
…と言っても袋ありでもやばいのには変わらないから、次の駅まで何とか頑張ってほしい。
本当に降りたい駅はもう少し先だけど、これは緊急事態だ。明日クラスの奴らには謝ろう。
「っ、ぅ、」
時折びくりと引き攣る陵の背中に、オレまで緊張して冷や汗が出てくる。
今その背中を撫でてしまったら大変なことになるだろうから、オレにできるのは早く着けと願うことだけ。
それが酷くもどかしくて、オレはぎゅっと拳を握りしめた。
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匿名(プロフ) - あ、442ce84a01のこのIDの同一人物です !【一応言っておこうと思って💦】 (12月20日 1時) (レス) id: 442ce84a01 (このIDを非表示/違反報告)
匿名(プロフ) - 暁☆さん» いえいえ、この作品とても大好きで読み返してます🍀*゜ゆっくりでいいんで楽しみにまってます!😊 (12月20日 0時) (レス) id: 689fc4b39d (このIDを非表示/違反報告)
暁☆(プロフ) - 匿名さん» コメント、リクエストありがとうございます!更新止まってしまっていて申し訳ございません🙇♀️ ぜひ書かせてください! (12月17日 22時) (レス) id: f3c28010ce (このIDを非表示/違反報告)
匿名(プロフ) - まだ大丈夫ですか? 可能でしたら、愁くんが修学旅行の夜に高熱を出してしまって、弱って泣いてしまう、看病は皆でお願いしたいです(>人<;) (12月12日 22時) (レス) id: 442ce84a01 (このIDを非表示/違反報告)
暁☆(プロフ) - 白夜さん» お返事遅くなって申し訳ございません!リクエストありがとうございます🥰 承知いたしました! (8月7日 21時) (レス) id: f3c28010ce (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:暁☆ | 作成日時:2021年2月14日 11時