3 ページ3
・
陵side
──実は昼くらいから体調の悪さを自覚していた、なんて言ったらひろは怒るんだろうな。
そんな能天気なことを考えている場合じゃないことはわかっているけれど、気を紛らわせないとやってられないのも事実。
──満員電車の中。
左手で袋を握りしめ、さらに右手を口元に当てているなんて、どう見ても気分の悪い人だろう。最悪。
ひろの買い出しになんて付き合ってやるんじゃなかった。
素直に体調悪いと伝えて、さっさと帰ってれば良かった。……できたかどうかは別として。
「…っん、ふ、」
もう何度めかも分からない、あがってきたものをぶちまけないように必死に飲み込む。
苦いものが口の中に広がって、もう本当にやばい。まじで、吐く。
さっき近くにいた女の人の匂いがまだ鼻に残っていて、それがよけいに気持ち悪さを増幅させた。
ぽたりと冷や汗が流れ落ちて、口を抑える手に力を入れる。ほんとに、やばい、むり。
「降りるぞ、あとちょっと頑張れ」
──周りの音をほとんどシャットアウトしていた中、ひろの声だけやけにはっきり聞こえた。
いつの間にか電車は駅に着いていて、ラッキーなことに俺らが立っていた側の扉が開く。
ひろに腕を引かれて電車を降り、数歩歩いて、それからは、もう我慢できなかった。
「っゲホ、」
慌ててひろの手を振り払い、袋を広げる。
ばしゃりと嫌な音と共に、袋がずしりと重たくなった。
「ぅえっゴホッ、ゲホッ、…っう、ぇっゴホッゴホッ、」
足から力が抜けて、がくんと視界が下がる。
ひろが焦ったように俺の背中を支えた。
──駅のホームに膝をつき、袋に嘔吐する男子学生。
周りの目を引くのには十分すぎたらしく、向けられる好奇の視線に体が強ばる。
「…何かおまえ熱くね?」
ぼそりとひろが呟き、そのまま背中をさすってくれた。
ぐらぐらと揺れる視界に気持ち悪さは悪化していて、上手く息が吸えなくて。
「っはぁ、ゲホッゴホ、っぇ…っゴホッ、は、はぁっ」
「ちょ、落ち着け。ちゃんと息吐け、な?」
耳鳴りが酷くて、ひろの声が遠い。
息が苦しくて、でも気持ち悪さも残ってて、嘔吐くのが止まらない。
ぽたりと地面に吸い込まれたものは汗なのか涙なのか、それももうよくわからなかった。
「っりょう!」
ふ、と意識が薄くなる感覚。
痺れた手から力が抜けて、ついでに、全身の力も抜けて。
俺を呼ぶひろの声が必死で、ごめん、なんて柄にもなく呟いた。
・
281人がお気に入り
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
匿名(プロフ) - あ、442ce84a01のこのIDの同一人物です !【一応言っておこうと思って💦】 (12月20日 1時) (レス) id: 442ce84a01 (このIDを非表示/違反報告)
匿名(プロフ) - 暁☆さん» いえいえ、この作品とても大好きで読み返してます🍀*゜ゆっくりでいいんで楽しみにまってます!😊 (12月20日 0時) (レス) id: 689fc4b39d (このIDを非表示/違反報告)
暁☆(プロフ) - 匿名さん» コメント、リクエストありがとうございます!更新止まってしまっていて申し訳ございません🙇♀️ ぜひ書かせてください! (12月17日 22時) (レス) id: f3c28010ce (このIDを非表示/違反報告)
匿名(プロフ) - まだ大丈夫ですか? 可能でしたら、愁くんが修学旅行の夜に高熱を出してしまって、弱って泣いてしまう、看病は皆でお願いしたいです(>人<;) (12月12日 22時) (レス) id: 442ce84a01 (このIDを非表示/違反報告)
暁☆(プロフ) - 白夜さん» お返事遅くなって申し訳ございません!リクエストありがとうございます🥰 承知いたしました! (8月7日 21時) (レス) id: f3c28010ce (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:暁☆ | 作成日時:2021年2月14日 11時