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愁side


目を覚ました陵は、いつも通りとはいかないけれど、夕方までに比べるとだいぶマシになっていた。

でもやっぱり心配で、ソファーから立ち上がってフラついた陵の体を支える。


「僕も行くよ」


そう言って笑いかけると、陵はぱちりと切れ長の瞳を瞬いた。

その瞳には薄く涙の膜が張っていて、どうしようもない庇護欲にかられる。


「病人ほっとけるわけないでしょ?ほら、早く行って休も」


一瞬じとりと睨まれた気もしなくもないけど、それは気にしない。


「……過保護すぎ。ちょっと寝れば治るだろ」


どろどろに甘えていた陵を見せてあげたい。
そんな考えが頭をよぎったけれど、今日だけは特別だ。


「甘やかしてあげるよ?」


いつもは頼ってくれない陵の、甘えた姿が嬉しかったから。


にこ、と微笑んでみせる。

陵は、は?なんて可愛くない言葉を返しながら、僕に背を向けた。


「勝手にすれば」


可愛くないその言葉さえも、今はただの強がりにしか聞こえない。
しょうがないよね、さっきまであんなんだったんだから。


「はーい」


笑顔で返事をしながら、いつもよりも熱い陵の体を支える。

自分で歩ける、なんて言ってきた陵のことはこの際無視だ。


「……ねえ陵」


共同リビングと廊下を繋ぐ扉を開けながら、そっと陵に声をかける。

陵は素っ気なく、何、とだけ返してきたけど、僕の耳にはいつもより荒い息遣いが聞こえてきた。


「僕ね、嬉しかったよ」


「…は?」


突然の言葉に、陵の低音が戸惑ったようにこぼれる。

僕は熱い陵の背中に触れながら、小さく微笑んだ。


「たまには甘えて欲しいな」


熱で幼児退行してしまうのはきっと、普段甘えられない分の反動だから。


陵はもうちょっと、僕らを頼って良いんだよ。


そんなセリフは恥ずかしくて言えないから、心の中でだけ呟いて。


「……バカじゃないの?」


陵の低い声が、鼓膜を揺らす。

僕の方を見た陵は、まだ赤みを帯びた頬で、意地悪く微笑んだ。


「優しい愁とか調子狂う」


むかっ。
人がせっかく心配してるというのに…。

抗議の声をあげようと口を開いたその瞬間、陵の背中に触れていた右手に、ずしりと体重がかかった。


「部屋まで連れてってくれるんだろ」


これはもしかして、甘えて…る?

下手くそすぎる甘え方に、思わず苦笑が漏れる。


…まあ今は、許してあげますか。


「もちろん!」


──甘えられない君を、たくさん甘やかしてあげる。





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暁☆(プロフ) - ayahanaさん» こちらこそいつも優しいコメントありがとうございます! おかげでまだまだ続けられそうです (*´ `*) ぜひ今後ともよろしくお願い致します〜! (2021年2月13日 9時) (レス) id: f1423fd483 (このIDを非表示/違反報告)
ayahana(プロフ) - 更新ありがとうございます!まだ続けて下さるどころか頻度上がるかもということで凄く嬉しいです、次のお話も楽しみにしています! (2021年2月13日 0時) (レス) id: a867efffe4 (このIDを非表示/違反報告)
暁☆(プロフ) - ayahanaさん» お待たせして申し訳ありません!こちらこそ読んでくださりありがとうございます〜<(_ _)> (2020年8月20日 7時) (レス) id: f1423fd483 (このIDを非表示/違反報告)
ayahana(プロフ) - 更新ありがとうございます! (2020年8月20日 0時) (レス) id: a867efffe4 (このIDを非表示/違反報告)
暁☆(プロフ) - りんごさん» ありがとうございます!頑張りますね! (2020年6月23日 20時) (レス) id: f1423fd483 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:暁☆ | 作成日時:2018年6月15日 20時

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