蛇の秘め事 ページ48
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めんどくさい女。その程度だった。
楠照Aという女に対する印象は最初、正直良いものではなかった。
しつこいくらいに話しかけてきて人の心にずかずかと何の躊躇いもなく入ってくる奴だった。
なぜ親しくもない相手とわざわざ時間を割いてまで話をしなければいけないのかが全くもって理解不能だった。
こういう奴にははっきり言ってやるのが一番だと思い、それを濁さずドストレートに言ってやった。
きっとこの女は俺のことを快く思わなくなるだろう。そして話しかけてこなくなるだろう。
そう、思っていた。
しかし思っていたものとはあまりにも違う反応をされて、柄にもなくぽかんとしてしまった。
「知らない人に割く時間がもったいないと思うのは個人の主観だから否定はしないよ。 でもね、私は伊黒君のことを知りたいから伊黒君に話しかけてるの。だから私は伊黒君に話しかけるのをやめないし、仲良くなりたいって思ってる。」
あまりにも真っ直ぐな瞳だった。揺らぎようのない決意の表れを感じた。
彼女の笑顔に酷く魅せられた。
それから少しずつ互いの距離も縮まり、こいつといる時間を愛おしく感じるようになっていた。
けれど、その時間には簡単に終止符が打たれた。
酷くあっさり終わってしまった。あまりにも唐突すぎて理解が追いつかなかった。
覚えているのは甘露寺の苦しげな泣き顔と、どうしようもない喪失感だけだった。
もう二度と。
あいつを。大切な人を。失いたくはない。
例え記憶がないとしても。例え俺達の絆を忘れてしまったとしても。
もう鬼という命を脅かす存在はいないけれど。
どうしようもなく、無性に、俺はあいつを守りたいと願う。
だから、こうして。
隣に並ぶことをどうか許して欲しい。
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aya(プロフ) - ラストに向けた展開に心揺さぶられました! (2021年6月8日 2時) (レス) id: 72cb3c8ec1 (このIDを非表示/違反報告)
かすたーど - ヤバっ!トリハダたちました…! (2021年5月16日 13時) (レス) id: 328ef4fff0 (このIDを非表示/違反報告)
巴 - 学園祭のお話がすごーく良かったです!高校時代に戻りたくなっちゃった。茶道部だったから不死川さんにお茶点てて差し 上げたいわ〜。 (2021年3月14日 0時) (レス) id: 7c1fbdaf37 (このIDを非表示/違反報告)
くれ - めっちゃ面白いです (2021年1月2日 17時) (レス) id: f26c98ad88 (このIDを非表示/違反報告)
そこら辺の水道水(プロフ) - いやなんかw主人公の実況が好きすぎてw (2020年11月18日 7時) (レス) id: 44bf365a1c (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:白霞 | 作成日時:2020年7月11日 23時