太芥『１日遅れ』 ページ11
◆
全身が粟立った。自分は生け捕りの任務で人を殺すよりも、全滅させる任務で取り逃すよりも大変なことをしてしまった。
「六月…二十日…」
当の昔に過ぎていたのだ、太宰治の誕生日は。
仮にも付き合っている芥川と太宰。これをきっかけに別れるなどということになってしまったら如何する。いても立ってもいられなくなり、樋口に仕事を任せ太宰の元へ行った。
**
当然、今日も今日とて太宰はサボりだ。そしてもう太宰に仕事をしろ仕事をしろと煩く言う者は居ない。(国木田は例外)
「はぁ…」
それにしても、太宰は気づけばため息、何処か上の空だ。
何か事情があるのかと聞きたいところだが、太宰さんのことだから心中のことかと敦は自己完結した。
「………え」
そして太宰は間抜けで、府抜けた声を出した。探偵社の窓からよく見えるあの黒い人はもしかしなくとも愛しいあの子だ。
「国木田君、私はちょっと出掛けてくるよ」
言ってる内容こそ適当だが、声は真面目で足取りも早い。国木田の反応を待たずに太宰は探偵社を出ていった。
***
目が合った時に芥川はすぐに反らしたが、太宰は反らさずにじっと芥川を見た。
「何か用かい？」
笑って出迎えると、殴られると言わんばかりに身体を硬直させた。
１日遅れてしまった誕生日の相手にかける言葉が見つからない。
「…」
黙ってうつむいた芥川を、黙って太宰は見つめた。単に気まずいだけであるこの状況をどうにか脱したいものだ。
暫くたった頃、太宰が口を開いた。
「何も、私は怒っていないよ」
その言葉に反応した芥川が何か言いたげに顔をあげる。ゆっくりとした足取りで芥川に近づく太宰。なかなかにある身長差をものともせずに太宰は芥川に口づけをし、こう言った。
「でも君からの贈り物は欲しいよ」
「…………僕が出来ることでしたら、何でも」
「そう。なら君の口から愛を囁いてほしい」
幾つか交わされた会話。芥川の声には若干の安堵と困惑があった。
ラッキーアイテム
デニムタイトスカート
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 75人がお気に入り
この作品を見ている人にオススメ
この作品を含むプレイリスト 
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
やつがれ愛し隊 - 最初から全部読ませていただきました。尊くて面白かったです!! (2021年9月9日 0時) (
レス) id: 2ccc567f0f (このIDを非表示/違反報告)
僕推し - 作品全て面白く、楽しく読ませていただきました！ありがとうございます！ (2019年1月2日 22時) (レス) id: ef4502d95a (このIDを非表示/違反報告)
月下美人 - とても面白いです！！！ (2017年10月7日 20時) (レス) id: b2db7ef5ff (このIDを非表示/違反報告)
藤見日和(プロフ) - 忙しい毎日の中で一番の癒しですた（ ; ; ）新作楽しみにしてます！！！ (2017年8月14日 14時) (レス) id: 3600278a3d (このIDを非表示/違反報告)
あをぞらばなゝ - 瑠羽さん» いえいえ！こちらこそすみません！このコメント欄の下へ行くとある「作者ホームページ」にURLを張っておいたので其処から行けると思います！(分かりにくくてすみません) (2017年7月31日 19時) (レス) id: 59e0ee862d (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：あをぞらばなゝ | 作者ホームページ：http://uranai.nosv.org/u.php/hp/TOMOTO/
作成日時：2017年6月11日 0時
