黒外套の禍狗がある日突然異能を使えなくなったので。

人間の三大欲求が欠落している ページ5

***


　結局その後、太宰は近場のコンビニまで行ってきた。もちろん芥川はごねて帰る帰ると言ったのだが、

「うるさい」

という太宰の一言で何も喋らなくなった。


　これは良いことなのか否か、よく分からないところではある。しかし太宰は現在すれちがう女性に声をかけたくなる衝動を堪えて自宅へ向かっていた。


　コンビニでは飲み物と軽食を買った。


***



「ただいま」



　こんな言葉を使う日が来るとは、と思いながら太宰は芥川のいる居間を見た。寝ているようだ。

　４年前の太宰なら蹴り飛ばしていたが、今は違う。少しずれていた毛布をかけてやった。



「…あ」



　しかし時計を見れば夕食の時間。
　どうせこの子はろくに食事を摂っていないし、睡眠時間も希少だろう。

　読みの鋭い太宰は睡眠と食事の究極の二択を迫られたが、最終的に出た答えは…



「芥川君、起きたまえ」

「ん…」



　食事であった。

　芥川は三大欲求が欠落している上、喜怒哀楽の真ん中２つの感情しかなく、何はともあれ太宰は少し間違えた教育をしていた。故にこうなってしまっているのだろうが。



「食べれるだけ食べて今日はもう寝ていいよ」

「……？此処は…？太宰さんが何故いる？夢…幻…」

「芥川くーん、現実だよー」



　太宰が神的存在である芥川は目の前に広がる光景を理解出来ていないようだ。が、太宰も其処まで鬼ではないのでまた一から説明する羽目になった。

***



「…やつがれが……」

「嗚呼、君は異能を使えなく」

「太宰さんと共に今いるのですか」



　其処か。其処なのか。


　自分の異能が使えなくなった悲しみより太宰といれる幸福さを感じている芥川に、太宰は苦笑した。しかし太宰が買ってきた軽食と飲み物は完食してくれたので嬉しく思う太宰であった。

台所は寝る場所じゃない→←全て完璧には出来なかった

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す