彼についての不満 ページ5
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「なんでそんな状態で走れんだよッ！！」
初めて目にする彼……ナワーブ＝サベダー……は、とても怖くて鋭い目を持った男の人だった。狼みたいだと私は思って、彼の頭を傷だらけの腕でクシャクシャと撫でた。
そんな私を見て、彼は舌打ちを打った。
私は、なんだか粗暴な奴だと思った。生きている。生きていすぎて、こう言っては失礼だが、とても暑苦しい。
「おら、立て」
首根っこを掴むようにして私を持ち上げると、「逃げるぞ」と短くつぶやいた。そして文字通り、私を引きずるようにしてゲートまで向かった彼は、自身の身を犠牲にするようにして私をゲートへ放り込んだ。
「……変な人。私は半分しかダメージを負っていないのに」
そう呟きながらゲートの向こうで引っ張られていく彼を見送っていると、入れ違いにやって来たダイアーが私を治療し始めた。
「あなた失血死寸前よ！？すぐに治療を終わらせるから、終わったら彼を助けに行って」
「なぜ？」
手早く包帯を巻いたダイアーは、ため息を吐いた。
「……はぁっ。そしたら彼、とても喜ぶから」
私は素直にうなずいた。
人が喜ぶことはしてあげた方がいい。それは幽霊だろうと、人間だろうと変わらないことだとイライも言っていた。
イライが言うなら、きっと正しい。彼は「幸せ」だった人だから。
私は立ち上がると、荘園の主から貰った骨壺を持ち直した。
「助けてあげてね。彼が笑顔になるように、優しくよ」
言い聞かせるような彼女の言葉を聞きながら、私はパタパタとナワーブのもとへ走り出した。
「骨は拾ってやるほどに、だったっけ」
美智子から習った言葉の意味は、とうの昔に忘れてしまった。
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作者名：トバリ | 作成日時：2020年11月9日 22時
