【IdentityV】彼女に殺意が抱けない。【傭兵】 (ページ4)

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「……なわぶ、試合まけたぁ？」

　俺は首を振った。

「いや。俺と技師が逃げられたから、引き分けだった。どうした？A、試合に負けたのか？」
「違うよぉ。なわぶが変な顔して笑ってたから、ダイアーに見てもらった方がいいと思ったぁ」

　「人のことは、よくわからないからぁ」とAは言いながら、俺に興味を失ったように廊下を進んでいく。

　俺はみじめに思えてきた。

　彼女は俺のことを見透かすように、何もかも知っているのに、興味がないように、ただ廊下をまっすぐに歩いていく。
　そんな風に気づいて聞く癖に、俺に興味は抱いていないのだろう。

　そんな風に詰りたくなって、自分の気持ちは自分だけの一方的なものだと認識しなおす。

「……っ」

　俺はこぶしを握り締め、小さく舌打ちをした。

　遠くでは、Aが楽しそうに誰かに話しかける声が聞こえる。

　嗚呼、俺もあんな風に何食わぬ顔で彼女の傍にいたい。

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