09,アリス ページ19
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それは人魚の恋に似ていた。
自分自身の力だけでは手に入らないものを契約で無理やり手に入れ、一時の快楽に浸るような……一種の恋だった。
僕が「あの鉱山」を模したステージでゲームをした日、Aは夜更けまで起きて薄い板に向かって何かを打ち込んでいた。
前に説明してくれたそれは「ぱそこん」。
僕らのいる時代よりもはるかに進んだそれを構成しているのも、一種の鉱物だと聞いて、信じられなかったのを覚えている。
漏れ出るかすかな光を頼りに鏡へ向かい、Aの名を呼んだ。
いつもの彼女ならば軽口を叩きながら、僕のことを異常に褒めたたえるから、僕のことを癒してくれないかと思ったのだ。
彼女の言葉には裏表がなく、豊富な語彙で飾られた言葉はオモチャを与えられるようだった。
何の負い目も感じない彼女の言葉は心地いい。
きっと、それは彼女が「外」の人間だからだろう。閉め切られた暗い空間で、逃れられない罪を日々みつめながら生きている僕らにとって、彼女のように生を謳歌している存在は幸福そのものだ。
これに関してはナワーブも同意見で、僕らは幸せな彼女が見たいのだ。
目が離せない子供のような、そんな存在。
だから、「自分で自分の気持ちが分からなくなるので、整理しようかなと」と言って笑った彼女の表情を見て、僕は恐ろしくなったのだ。
「心配しなくていい。危険な生活には慣れている」
「狡いなんて言わないでくれ。私は目くらましが少し上手いだけだ」
「いつになったらレシピを手に入れられるのかしら」
「大好きなカカシさんにはまだ飾り付けが必要ね」
それは僕らが良くする表情だった。
忘れてはいけなかった。
彼女が荘園にいないから。日常を平和に送っている学生だから。
彼女は僕らから見て「正常」なのだと勘違いしていた。
こんなにも優しくて幸せそうな彼女は、愚かにも僕らと同じ道をたどろうとしていた。
得られるものは少なく強固で失うものは多く儚い。
それを教えてあげなければと思った。
「大人」として彼女の支え木になってあげたいと思った。
だから僕は微睡む意識の中で彼女に言ったのだ。
今なら告げられる、と。
「……俺たちと」(同じになってはいけないよ)
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トバリ - ミルクケーキ@ﾄｼさん» ありがとうございます。更新、頑張らせていただきますね。 (2020年10月6日 18時) (
レス) id: 1296928d7f (このIDを非表示/違反報告)
ミルクケーキ@ﾄｼ(プロフ) - 好きです！更新頑張ってください！！ (2020年10月5日 18時) (レス) id: 4eab459e35 (このIDを非表示/違反報告)
トバリ - クルルさん» ありがとうございます！こちらだけでなく、短編まで！嬉しい限りです。 (2020年9月17日 22時) (レス) id: 12a0f93b04 (このIDを非表示/違反報告)
クルル(プロフ) - 新作呼んできました！とっても面白くて・・・いつか短編集じゃなく中編として出してほしいくらい！更新頑張ってくださいね！ (2020年9月17日 21時) (レス) id: 5254ebaae5 (このIDを非表示/違反報告)
トバリ - クルルさん» 誤字報告、ありがとうございます。とても恥ずかしい間違いをしてしまいました……////。いつもご愛読、ありがとうございます。 (2020年9月13日 12時) (レス) id: 43b40f5855 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：トバリ | 作成日時：2020年8月8日 19時
