バルコニーと煙草【ut】 ページ11
( バルコニーと煙草 / u t )
プルルルル……プルルルル…
少し歪な形に欠けた月の静かな夜。
突然ポケットの中に忍ばせていたスマホが振動し、ここ最近あまり聞いていなかった着信音が流れた。
ut「…ん。どうしたん、こんな時間に？」
A「鬱……ちょっと聞いてよ！彼とまた喧嘩しちゃったの…！！」
電話の相手は高校時代に付き合っていた元カノからのものだった。まぁ、別れた時の記憶などとうの昔に忘れてしまったが。
だが付き合いが長かったおかげか、今でもちょくちょく相談相手として電話をしている。
もちろんお互い未練など一つも無い。
まぁ、相談というか…ほぼコイツの旦那についての愚痴なんやけど。
ut「はぁ…また喧嘩したんかお前？ええなぁ〜新婚さんらは喧嘩するほど幸せで」
A「全然幸せじゃないのよそれが！彼、最近全く構ってくれないし…それに彼のスマホの電話が鳴ってたから出ようとしたら凄い怒られたのよ？これ絶対に浮気してるでしょ！？」
ut「あぁ……それはだいぶ怪しいで」
A「はあぁ………こんな事ならアンタを選んどけば良かった…」
ut「ッ…！」
俺を選んどけば、ねぇ……
その甘い誘惑に思わず「なら、…」と言葉を返しそうになる。
だが、そんな言葉を今はゴクリと飲み込むだけ。
ut「…きっと僕選んどっても同じこと言ってんで？」
A「んふふ…それもそうかもね？」
ut「ふふっ」
A「あっ、彼帰ってきたみたい！じゃあ切るね？今日もくだらない愚痴話聞いてくれてありがとう…鬱」
ut「ええよ別に。何があったらまた電話しいや」
A「ありがとう。じゃあね、おやすみなさい」
ut「あぁ。おやすみ…A」
ピッ……
ふぅ〜…と肺いっぱいに吸い込んだ煙草の煙をゆっくりと空に向かって吐き出した。
歪な月が差し込むバルコニーに独り夜空を見上げながら少し冷たい風を肌に感じて、また煙草を吸う。
手に持っていたスマホが雑に放り投げられた部屋には、汚れきった灰皿と空の数本のビールが乱雑に置かれている。
ut「ふぅ〜……俺を選んどったら…なぁ」
その声は今日も誰にも聞こえない。
ーENDー
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作者名：トクノメイ | 作成日時：2018年5月4日 0時
