チート夢主大戦争【オリジナル】

第５話：IQ197の天才少年 ページ6

激しく打ち付ける通り雨が、住宅街の夕暮れを一層寂しげに染め上げていた。一際目立つ３階建て住居の中では、今年何度目となるか分からないやり取りが行われていた。


「なぁ時雨雪、頼むから学校に来てくれよ……。お前がとんでもなく賢いのは先生も分かってる。今更中学校なんて通う意味がないと思っていることも。先生もそれは同……いや、これを先生が言っちゃダメか……校長先生には秘密にしてくれよ、時雨雪。……だが、お前も知ってるとは思うが、日本には教育を受けさせる義務というものがあってだな……」


要領を得ない教鞭を垂れているのは、スーツ姿の男性だ。一人称が先生であることから、彼が教師として食い扶持をつないでいることが分かる。明度の高い紺スーツに橙のネクタイを合わせている点に、若さと不器用を感じずにはいられない。だが、裾が湿ったスラックスが、彼がこの大雨の中ここへ来るまでに要した苦労を物語っている。きっと真面目で生徒思いなのだろう。

「……だからな、頼むよ時雨雪。週に一度いや、二度……いや、やっぱり四度!たった四度で良いから、登校してくれないか?な?な?頼む、この通りだ!!」

そう言って彼は深々と頭を垂れた。露わになった後頭部に、僅かながらの寂しさが見受けられる。

しかし、その原因であろうと思われる、時雨雪と呼ばれた少年――名は或斗という――は、担任教師の懇願に全くもって無関心であった。彼はただ、真夜中の空における美しさを祝福するかのような髪を垂れ、一心に何かを組み立てていた。

「お〜い時雨雪ぃ聞いてるのか……いや、聞いてくれよぉ」

教師が窺うように顔を上げるが、彼は一瞥もくれない。これは今日に限ったことではないが。

教師は深い溜息を吐き、それを慌てて隠した。それから暫くの間何かを思案していたが、やがて意を決したのか、少年の向かい側の席に腰を下ろす。そして、椅子から生えだしたマジックハンドに全身をがっちりホールドされた。


――マジックハンド?

「し、時雨雪、何だk」椅子が激しく回転し始めた。焦げ臭いモーター音が響き、天井が開く。


そして、星空へ教師は発射された。

「うぉおぉおっぉああぉぉわぉああわぉぉあああっぁああわわぉわああぁっ!?!?!?!?」

空高く舞い上がる教師に、少年は嬉々として叫ぶ。

「あはは、お前がそこに座ることは計算済みだ!初めての空中散歩はどうだ!?喜べよ、貴重な経験だぞ!」


教師を蹂躙することが、IQ197の天才少年の日課なのだ。

第６話：日常の崩壊〜ｓｉｄｅ早乙女〜→←第４話：世界を虜にするグレー

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