チート夢主大戦争【オリジナル】

第12話：出会って３秒で乞いに墜ちる（５） ページ13

〜摩那side〜

「学校で習いましたよね、人の嫌がることしちゃだめだって」

「先にコイツが嫌がらせして来たんだよ。なんか文句あるか?」

真っ直ぐにギトギトスキンヘッドと対峙する胸部以外が華奢すぎる少女は、全く怯みを感じさせない。摩那は驚きを隠せないが、それよりも彼女の瞠目を誘うのは、男と張り合うその態度だ。彼女はロープがほどけて自由なのだから、今の内に一人で逃げ出しても良さそうなものだ。折角、男が自分を捕えておくことで精一杯なのだから。もし標的が彼女に移れば、勝ち目など全く無いのは誰の目にも明らかであり、従って、彼女の行動は余りにも整合性を欠いている。しかし、希乃は更に男の神経を刺激する。

「でも、それは仕返しして良い理由にはなりません」

「……〇られてぇのか、てめぇ……?」

緊迫した空気が無機質な空間に一層の重圧感を与え、誰も身動きできなかった。張り詰めた均衡も相まって、工場内の時間が止まってしまったかのようだ。その中で摩那は、男に視線を固定している童顔を凝視し、その意図を見抜くべく必死に頭を回転させていた。だが、その愛らしい瞳からは何も読み取れない。

――役者でもここまで感情を隠せる人はそういないわ……あの子、一体何を考えて……役者?

この時、摩那の脳内にある現状突破策が浮かんだ。そして、それと全く同じことを彼女が考えていた事実に気付き、口角を片側のみ微かに綻ばせた。彼女は男の様子に視線を走らせながら、左手を懐へ慎重に差し入れた。


〜希乃side〜

――このおじさん、どうしてダメなことが分かんないのかな……。

無言の圧と凄みを効かせてるやーさんを見つめ、希乃は彼を説得する文言を思案していた。だが、彼女にその打開策を編み出させるなど、土台無理な話である。桃色の柔らかな髪をたたえる頭蓋骨が必死で守っているのは、減量に貢献させられた小さな脳味噌なのだから。

――……。

摩那が何も読み取れなかったのも当然の結果である。睨み合い開始から5分が経過した現在、彼女は何も考えていないに等しかった。

――取り敢えず、もう一回言って考え直してもらうしかないかな。

これだけ熟考しての結論がこの程度とは嘆かわしい。でも、希乃は本気で取り組んだんです。勉強ができる事が生徒の価値ではありません!先生、成績表の所見には優しい子、とでも書いてあげて下さい!

そんなメタを知る由もない希乃が口を開いた時だった。

「!?」


狙撃音と共に男がくずおれたのは。

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