チート夢主大戦争【オリジナル】

第10話：出会って３秒で乞いに墜ちる（３） ページ11

うっすらと世界が灰色に霞み、再び闇が降りる。ずっしりとのしかかる疲労感は、現状理解への気力をいとも容易く奪ってゆく。このまま眠っていたい、そう思わせるには十分なコンディションだ。しかし、暗幕にちらちら瞬く僅かな光が、希乃の意識を無理矢理覚醒へと導いた。

「……ふみゅぅ……?」

この手のチート夢主が言いがちの寝起きボイスを小さく発し、はっきりしない視界をぼんやり眺める少女。この世の全乙女代表として言わせてもらうが、そんな言葉と共に目覚める人間など断じていない。従って作者は今、彼女をハッ倒したい衝動に駆られているのだが……話が進まない上にメタいことこの上ないため、ぐっと堪えることとしよう。


その少女――希乃はどうやら未だ夢見心地らしく、半開きの目をしばたかせながら、そろそろ晩御飯の時間かな、などと考えていた。しかし、そんな能天気極まりない彼女も、徐々に鮮明になる思考と比例するように、違和と疑問を抱かずにはいられなくなったらしい。

――あれ……?

希乃は先程まで、自室にいると思い込んでいた。だが現在彼女の網膜に映し出されているのは、見慣れた景色――ふわふわのぬいぐるみの数々や白で統一された家具が並ぶ、いわゆる姫部屋――ではなく、無機質なコンテナや、油ぎって鈍く光るドラム缶が無造作に配置されている様である。

「ここどこ……?確かさっきまで、いつものお兄さん達に追いかけまわされてたよね……?」

こんな所に逃げ込んだ覚えがないのに、などと自分の置かれた状況について思考を巡らせる希乃。しかし彼女は寝起きな上、常人に比べて思考力というものが不足している。従って、幾ら熟考しようが結論は出そうにない。その上、纏まらない考えを更に妨害するように、真後ろから言い争いの声が飛び込んできたことで、彼女は作業を放棄することとなった。


「つべこべ言わずに大人しくしやがれ!」

「……い、嫌っ、お願い離してッ!!」

野太く痰がらみな男声と、途切れ途切れに引きつる少女の声。許して、触らないで、と、泣きじゃくりながら許しを乞うているその声色は、単なる諍いというには余りにも切羽詰まっていた。

(……え……?)

思わず振り返った希乃の目に飛び込んできたのは――手足を激しくばたつかせ抵抗する少女と、彼女を押さえつけようと悪戦苦闘する、ガタイの良い大男の姿だった。

第11話：出会って３秒で乞いに墜ちる（４）→←第９話：出会って３秒で乞いに墜ちる（２）※ちょい怖

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