残り香【S.K】 (ページ8)

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夏の#8 ページ8

幼なじみ。腐れ縁。カテゴライズ的には、そう。

同じクラスで、同じ学校に進学して。親同士も仲良くて。

仕事を始めても家族ぐるみの付き合いは変わらなかった。俺とAも、ずっと変わらない、兄妹みたいなもんだった。

そうだ。兄妹みたいなもんだと思ってた。いや、それは正確じゃない。思い込もうとしてたんだ。

いつからか、あいつの、Aの視線に違う想いが混じるようになって。

そりゃまんざらでもなかったさ。オレだって、それに気づいたときには、心の奥にいつのまにか生まれていた兆しを持て余していたんだから。

だけど、オレは華やかな世界に憧れた。煌びやかな世界に、目を奪われていた。

ただの幼なじみだし、いつも当たり前のように隣にいたから。だからいつだってそこいるもんだって、思うだろ。

・・・そんなワケなかったのにな。

辛くて、傷ついて、Aに甘えようとして。だって、甘えさせてくれると思ったんだよ。

サイテーだよ。ガキだったけど、サイテーだった。

『しゃんとしなよ』

まっすぐオレを射抜くAの目。

逸らしたのはオレだ。そのまま、Aから視線を逸らして、前だけを見た。また走り出すことができたんだ。

Aを、置き去りにして。

鬱金色の香が、白く、砂よりも細かな灰へと姿を変えた。

～♪

携帯が鳴ってる。迎えが来たかな。

１本が欠けた、あいつが好きだと言った香の箱を棚に上げる。

「じゃあ、行ってくる」

もう返事は聞こえない。

だけど、確かにあいつに背中を押されたんだ。

前に進むために。

生きていくために。

『残り香』

SHIGEAKI Kato