残り香【S.K】 (ページ6)

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夏の#6 ページ6

ズキン、と切り裂かれたように心臓が痛む。

部屋にいやな沈黙が降りた。

時計の針だけが、無情に回り続ける世界をどうにか繋ぎ止めている。

「ねえ。私が成亮を受け入れてたら、何か変わったのかな」

何度も考えた。何度も、何度も、何度も。

どこで間違ったのか、どうすればよかったのか。そんな仮定の話を何百回と構築しては、崩した。

だって、現実は、変わらない。

どう言葉を発すべきか、オレは口を閉じる。

ふと、紙袋が目に入った。

厳重に包まれた四角い箱を、宝物みたいにそっと取り出す。

いつもならビリビリにするけど、頑張って丁寧に包装を外した。

鬱金色の一本をつまんで、目の前へとかざす。

火を点けなくても、かすかに香が香る。

じっと、Aがオレを見ている。その視線を感じながら、少しほこりをかぶってしまった香立てを指で拭い、そこへ差し込んだ。

マッチで火を点ける。

と、すぐに部屋が馥郁たる香りで満たされる。

いくな、と言えばいいのか。

いかないことが正しいことなのか。

・・・そんなことはない。絶対に。このままここにいて、いいわけがないんだ。

「じゃあ、いくね」

オレの心中を察したのか、ソファからふわりと体を浮かせたA。

「猫になったらちゃんと飼ってよ？面倒みてね。ずっとペットホテルとか嫌だからね」

「ほんとにいくのかよ」