神すらも救えない【高杉晋助】 ページ40
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「────この世に神などいないのです」
目の前の女は静かにそう呟いた。諭す様に囁いた。月が美しい夜の事だった。
「……あぁ、いえ。やはり神はいるのでしょうか」
数秒の沈黙の後に、女は自分の言葉を曖昧に否定した。こてんと首を傾げる様子は幼子のそれに近い。年は自分とあまり変わらないはずだが、未だ紅顔の少女の面影を残した顔立ちがより幼さを引き立てた。
「神なんざ、いやしねェよ」
舌先で転がしていた煙管の煙をゆっくりと吐き出して、俺はそう言ってやった。女は視線を月から俺へと移した。
「いいえ、いいえ。神はいますとも」
女はまた諭す様に囁いた。幾分か、先程よりもうっとりとした声で言った。
「ただ、神は私達を救ったりなどしません。されど罰する事もまた無いのです」
再び双眸が月へと移る。月光に照らされる白い首筋。いささか唆るモノがある。
「この世のモノに生を与え、縁を紡ぎ、見守る。きっと、ただそれだけです。そうでしょう?晋助さん」
俺の名前を呼ぶ声は今にも消え入りそうな位に儚く、そして美しかった。
「……さァな」
問いかけには答えない。代わりに目の前の女、Aを己の腕で強引に引き寄せる。Aは小さく、小さく悲鳴を上げて俺の胸の中に倒れ込んだ。
「随分、強引なのですね……酔ってらっしゃるのですか?」
「かもしれねェな」
実際にはそれほど呑んではいなかったが、普段より体が幾分か熱を帯びているのが分かった。
「まァいいじゃねェか、細けェ事は」
Aの黒髪を指に絡めた。指の間を髪が滑らかに通っていく。そのまま顔の方まで寄せて匂いを嗅いでみたり、軽く口付けたりすると、Aは何も言わないがむず痒そうな顔をした。
首筋に唇を寄せる。一瞬びくりと跳ねた姿が愉快な一方で、ぞわりと刺激させられたものがあった。
痕なんざつけない。燃える様に紅い情花など残さない。この女はそれの意味を理解する事ができないからだ。言ってしまえば、俺にとってその行為は全くの無意味でしかない。
先程烏の濡れ羽色の髪に施した様に、対照的に白く見える首に軽く口付けをした。触れるか触れないか、ギリギリの間合いを何度も往復させる。温い体温がじわりじわりと熱を上げているのを俺が見逃す訳がない。
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瑠璃鶲(プロフ) - エトさん» 大変申し訳ございません!(滝汗)しかしその様に言ってもらえて大変ありがたいです!寧ろ私の利己的な作品を見てくださっているので、感謝の言葉しか出てきません。今後は誤解のない様に何らかの対策を講じるので今後も閲覧よろしくお願いします! (2017年9月9日 22時) (レス) id: a2c8773b35 (このIDを非表示/違反報告)
瑠璃鶲(プロフ) - エトさん» コメントありがとうございます!えーっと、作品の冒頭の追記欄に書いてある通り、基本的に物語の終わりにはENDを付けております。したがって『忠誠心』という物語はまだ未完の状態でありまだ続き物として扱っていたのですが……分かりづらかったですよね。(汗) (2017年9月9日 22時) (レス) id: a2c8773b35 (このIDを非表示/違反報告)
エト - 高杉の忠誠心の作品は、読んでいてとてもわくわくしながら観ました!出来ればあの後どうなったのか続編の作品が観たい!我が儘だと自覚していますか。お願いします (2017年9月8日 18時) (レス) id: 32fc95954c (このIDを非表示/違反報告)
後輩2(プロフ) - アルハ*平日低浮上*さん» コメントありがとうございます!まさか書いた直後にコメントをもらえると思っていなかったのですごく嬉しいです!むしろまたコメントしてくださってありがとうございます(五体投地) (2017年8月11日 8時) (レス) id: c37a9d99ce (このIDを非表示/違反報告)
アルハ*平日低浮上*(プロフ) - 何度もすみません、高杉ドストライクです。ありがとうございます(土下座) (2017年8月11日 0時) (レス) id: 5e4beefb64 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:瑠璃鶲 | 作成日時:2017年1月24日 1時