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なんて激しい口付けだろう。
もしこれがいつもだったなら、嬉しくて、幸せな筈なのに。何故か今日は悲しくて辛くて仕方が無い。
やはり体調は変化しているらしく、じわりじわりと吐き気がこみ上げてくる。
「……んっ、……う、うう……」
「……A?」
まずい、もう我慢出来ない────!
「……はっ、申し訳っ、ございませっ……!」
一瞬緩んだ手の縛めを振りほどき、すぐさま起き上がって厠に向かって走り出す、が。
「うぅっ、うえぇ……おぇっ……っ……」
体調の変化に体は驚く程素直で、さほど移動する事も出来ずにその場にへたり込んでしまった。
「オイ、A!どうした!?」
晋助様はすぐに私の異常に気づいて駆け寄ってきた。先程のあの瞳とは打って変わって今は焦燥に駆られた様にゆらゆらと揺れている。
私ごときに、晋助様が心を乱している。
「ぐっ……もうし、わけ、ございま……うぇっ……」
「いい、喋るな」
そう私を制した晋助様は優しく背中を摩ってくれた。
されど吐き気は増すばかりであり、喉に何かつっかえた様な感覚は無くならない。しかもいくら吐き出そうとしても出てくるのは胃液ばかりである。
苦しい苦しい。この胃から異物がこみ上げてくる様な感覚も、それと一緒に出てしまいそうになるこの想いも。
いっその事、全部言ってしまった方が楽になれるのだろうか。いや、駄目だ。そんな事をしてしまったら、私は、晋助様は、一体────
晋助様はとてもお優しい方なのだ。
私をただの道具として扱えば良いのに、晋助様はそうなさらなかった。
お夜伽の最中は、まるで情事を思わせるかの様に私を慈しんで下さる。まるで、そこに愛があるかの様に。
本来私はこのような事はまるっきり不得手だが、晋助様はそれを見抜いていた(だろう)にも関わらず私をお選びになった。
それは何故か?簡単だ、そこに都合良く私がいたからだ。
そう思うべきだ。そう思わなければ駄目だ。
そうじゃないと、私は、晋助様に愛されていると、勘違いしてしまう。
次第に吐き気は収まっていき、あの喉につかえる様な感覚も無くなっていく。
だけど、私の想いは膨らんだまま、消えてくれない。
「……A、お前ェまさか……身籠ったのか?」
……流石にもう誤魔化せない。潮時、だ。
「…………はい」
情けなく震えた声と共に、涙がぽたりと、畳に落ちた。
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瑠璃鶲(プロフ) - エトさん» 大変申し訳ございません!(滝汗)しかしその様に言ってもらえて大変ありがたいです!寧ろ私の利己的な作品を見てくださっているので、感謝の言葉しか出てきません。今後は誤解のない様に何らかの対策を講じるので今後も閲覧よろしくお願いします! (2017年9月9日 22時) (レス) id: a2c8773b35 (このIDを非表示/違反報告)
瑠璃鶲(プロフ) - エトさん» コメントありがとうございます!えーっと、作品の冒頭の追記欄に書いてある通り、基本的に物語の終わりにはENDを付けております。したがって『忠誠心』という物語はまだ未完の状態でありまだ続き物として扱っていたのですが……分かりづらかったですよね。(汗) (2017年9月9日 22時) (レス) id: a2c8773b35 (このIDを非表示/違反報告)
エト - 高杉の忠誠心の作品は、読んでいてとてもわくわくしながら観ました!出来ればあの後どうなったのか続編の作品が観たい!我が儘だと自覚していますか。お願いします (2017年9月8日 18時) (レス) id: 32fc95954c (このIDを非表示/違反報告)
後輩2(プロフ) - アルハ*平日低浮上*さん» コメントありがとうございます!まさか書いた直後にコメントをもらえると思っていなかったのですごく嬉しいです!むしろまたコメントしてくださってありがとうございます(五体投地) (2017年8月11日 8時) (レス) id: c37a9d99ce (このIDを非表示/違反報告)
アルハ*平日低浮上*(プロフ) - 何度もすみません、高杉ドストライクです。ありがとうございます(土下座) (2017年8月11日 0時) (レス) id: 5e4beefb64 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:瑠璃鶲 | 作成日時:2017年1月24日 1時