赤色のミサンガ 3 (ページ5)

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　十年前から昼寝のときは割と近い場所にあった温もりが今は思ったより遠くて、目が冴える。抱きしめて眠りたいが、今度こそ逃げられやしないか……と目を閉じて思考を巡らせていると、もそもそとシーツの擦れる音がして薄く目を開けた。

　……なんか近付いている。
　ついさっきまでの開きすぎた距離といったら、二年前にひめの大変愉快な寝相を考慮したキングサイズのベッドを選んで購入したことを思わず後悔するほどだったが。

真白な布団からふわふわの髪の毛が見え隠れするのを視界に収め、反射的に目を瞑って寝たふりをする。俺が目覚めていないことを確認したのか、今度は大胆にすすすと近付いてきた。自分のものとは違う温もりと甘い香がやけに鋭く感じられる。にやけてしまいそうになるのを必死に堪えた。やがてAは俺の腕にぴたりとくっつき、肩に額を寄せてそこに落ち着く。

｢……｣

　かわいい。衝動で感情が表に飛び出そうとするのを押し留めるのは彼女と一緒に暮らすようになってから段々と慣れてきたつもりだったが、時に限界を突破することもあるものだ。もう一度目を開け、暗闇に慣れてきたそれを温もりの方へ向けた。すよすよと穏やかな寝息が聴こえてくる。

　そっと横向きになり、布団を被っていたせいで既に爆発しかけている寝癖頭を羽に触れるように軽く撫でた。

｢今日も愛してる｣

　存外怖がりで臆病なAが、俺の心に真っ直ぐ目を向けられる日まで。身を焦がすほどの恋の果てにある幸いを胸いっぱいに受け止められるその日まで。夢の中にいるAに愛を囁き続けよう。俺はもうあの頃ほど口下手ではない。察してもらわなくたって、自分で声を上げることができる。だから、もう見て見ぬふりはさせない。

｢待つのも、もう少しだけだぞ｣

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