出られない部屋のアマテラス。 ページ41
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｢……まだ出たくないのか？｣
｢うん｣
離さないと言わんばかりに首元にぎゅうと抱きついているAの背中を撫でる。すりすりと猫のように擦り寄られる擽ったさで思わずくつりと笑みが零れた。
扉だけが浮かび上がっている真っ白な空間。そしてやたらと存在感を放つ｢キスしないと出られない部屋｣の文字。そう、俺たちは何故かこの空間に閉じ込められている。文字が示す通りであればキスをすれば出られるはずなのだが、他でもないAが外に出るのを拒んでいるのでこの状況に甘んじることとなった。
｢A｣
｢ちゃんとぎゅってして｣
｢わかったわかった｣
話をするために抱擁の腕を緩めると、ご機嫌ななめなアマテラスから可愛らしいクレームが入る。もう一度力を入れて抱きしめた。俺も大概彼女に甘い。
どうしてAがこの部屋から出たがらないのかは大方察しがつく。ここ最近残業が多く、一緒に過ごす時間が目に見えて減っているからだろう。寂しがり屋で甘えたな彼女には少々つらい日々であったことは想像に難くない。
｢寂しかったか｣
無言で頷いた。かわいい。自然と口付けたくなるのを見透かしたひめが｢ちゅーはダメ｣と拒否してくる。今気付いたことだが、キスしたくてもできないというのは中々につらいものだ。
｢俺はしたいんだが｣
｢ダメ｣
｢……｣
取り付く島もない。まさか無理矢理するわけにもいかず、行き場のない欲が彷徨う。｢忍耐｣の二文字を脳裏に思い浮かべながら暫し耐えていると、先程まで顔も見えないほどくっついて離れなかったAがそっと顔を上げた。愛嬌のあるくりくりの眸に俺の顔が映る。
｢A？｣
｢ちゅーしたくなってきた｣
｢唐突だな｣
｢でもずっとここにいたいからしたくない｣
Aが悩ましげに眉根を寄せた。人差し指で眉間の皺をちょんと突き、驚きに眼を瞠る彼女にキスをおくる。ガチャリと扉の鍵が開くのを横目にそっと唇を離すと、ぷうと頬を膨らませた。かわいい。
｢今日は寝室に籠って過ごそうか｣
｢！｣
ぷしゅりとAの頬から空気を抜いて告げる。途端に分かり易く輝く色素の薄い眸が宝石のように見えた。
Aはまるでアマテラスのように外を遮断して閉じこもってしまうけれど、彼女が雲隠れする天岩戸は俺の懐であって欲しい。快も不快も引っ括めて、あるがままの心に触れさせて欲しい。そう願わずにはいられないのだ。
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作者名：おひめ | 作成日時：2023年1月31日 1時
