溺死は思ったより悪くない 【赤井秀一】

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ボウヤは「蘭姉ちゃんが迎えに来てくれるから待ち合わせ場所に行かないと､さよなら!」と元気よく帰っていった｡
まぁ､一人で帰る気なんだろうが｡

洗い物を手伝うと言ってきた彼女を半ば強制的にソファー座らせた｡

「全てやってもらっていては申し訳ない」
「TVでも見て､ゆっくりしていろ」

不服そうな顔をしていたが､TVをつけてやれば動物系の特集番組がやっていて､機嫌は直ったようだ｡

洗い物を終えリビングに戻れば､ソファーに座ってこっくりこっくりと船を漕ぐ彼女が目に入った｡

暫く見ていれば､そのまま完全に寝落ちた｡
ソファーでは体を痛めるだろうと､横抱きにして寝室へ運ぶ｡
ベッドに横にさせれば､布団がまだ冷たかったのか縮こまった｡

彼女の手を触ってみれば､とても冷たい｡
これでは布団があたたまるわけもない｡

そう思いベッドに入った｡
やましい気持ちなど一切ない､ただ純粋に布団を温めてやろうと思っただけだ｡

「……楓…」

そう声に出した彼女は俺の抱きついていた｡
温かいものを求めていたのだろうが､他の男の名前を呼ばれるのは不愉快だ｡
たとえそれが双子の兄であったとしても｡

近い未来に､寝言でもなんでも俺の名前を呼ばせてやると決心した｡

彼女の体を抱き寄せて､瞼を閉じた｡
寝るには少し早い時間だが､まぁこの際仕方が無いだろう｡

「良い夢を」

髪を分けて額にキスを落とす｡
少し温まってきた体に安堵しながら､俺も眠りについた｡

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