君の愛を全て頂戴【呪術廻戦】

少し遠い未来でのお話【後編】 ページ13

取り敢えず帰ろう、差し出された手を握って帰路についた。君は嬉しそうに笑いながら、矢継ぎ早に言葉を並べる。病院に行かなきゃね、とかどっちに似るんだろうね、とか。でも、当の私はまだ他人事のようだった。君が喜んでくれるのは嬉しい。でも、自分が母親になれる気がしなかった。


「僕は、どんな父親になれるかな」


その言葉に、ふと両親が頭をよぎった。私の父は、私が生まれた瞬間、何を思ったんだろう。母は、私が生まれた瞬間、少しでも喜んだのだろうか。生きてほしいって願ってくれたのだろうか。


君は、きっと愛に包まれて生きてきた。暖かいおくるみに包まれて大事に大事に育ったんだろう。君は美しい。愛が君をそう育てた。でも、私は？撫でてもらったことも、抱きしめてもらったこともない私は？愛に見放されて育った私は、お腹の子を愛せるの？


「君は、私が母親になれると思う？」


キョトン、君は歩みを止めた。私も止まった。


「私は、もしかしたらこの子を殴るかもしれない。蹴るかもしれない。自分の思い通りにいかなかったら無力なこの子に酷い言葉を投げつけるかもしれない」


私は、そんな親しか知らないから、この子に同じことをするかもしれない。


君の手をゆっくり離した。君の望む親になれないかもしれない。中絶ならまだ間に合う。君と離れるなんて死ぬほど嫌だけど、君が私のせいで不幸になるのはそれ以上に嫌だ。逃げるなら、今だよ。


ぎゅ、痛いくらい、触れたところから溶けてしまいそうなくらいの力で、君は私を抱きしめた。耳元で、君が囁く。


「その時は、僕が君を止めるよ」


君の目が私を映す。


「愛し方が分からないなら、一緒に知っていこうよ。人生は長いから、きっといつかわかる日が来る。君が怖いなら、僕は一生君と二人でも構わないよ。でも、もし君が少しでもこの子に会いたいと思ってるなら、」


腹を撫でる手は優しい。


「その時は僕が全力で君とこの子を幸せにするよ」
「私、良い母親になれるかなぁ」


ボロ、今日は泣き虫だ。でも涙が溢れて仕方がないの。


「良い母親じゃなくても良いよ。君は君なりの母親になればいい。ダメな所があれば叱って、嬉しい時は一緒に喜んで。Aならなれるよ。だって、」


君はもう、一人じゃないからね。


そっか、不器用に笑った私にキスを一つくれた君は、もう一度私に手を差し伸べた。私は、それを強く握った。


とくん、お腹に手をあてたら、微かに振動が聞こえた気がした。

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