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「あははは!恨んで、恨んで、もっと恨めば良いよ!だからAちゃん。君だけは——俺を、一人にしないで」
男はそう云い残して窓から外へ飛び降りる。
私は言葉の意味を完全に掴み取る事が出来ず、呆然とそれを見送った。
しんと静寂が社内を包み込む。
あの男が居なくなってもなお残る、異様な空気が渦を巻いていた。
唇を噛んで俯き、立つ力も失って床に座り込む。
力が出ないのは毒の所為か、それとも社員達の表情を見るのが、声を聞くのが怖いからか。
チカチカと視界が白く点滅し、やけに自分の呼吸が大きく聞こえる。
今だけは、遠のく景色に感謝したい気分だった。
─────
薬品の匂いが鼻を刺す。
目覚めると、見慣れた探偵社の医務室の寝台に寝かせられていた。
静かな一人だけの空間。
それが何となく淋しいのは、探偵社の賑やかな空気に慣れた証なのだろう。
起き上がって部屋を見回すが、そんな事をしていても意味が無い。
重たい足を動かして、医務室の扉の前で立ち止まる。
開ければこの先の皆と顔を合わせる。
その時、人殺しだとバレてしまった私はどんな表情をすれば良いのだろう。
だが足がすくみそうなのは、それだけ探偵社の皆が大切な人だから。
どうでも良い人相手なら、こんなに怖くなる筈が無いのだ。
だが——だからこそ、私は皆を信じよう。
私の大好きな人達だから、暖かい人達だから、決して真っ白ではない私でも受け入れてくれると。
深呼吸を一つ。
私は覚悟を決めると、扉を開いた。
ガラガラという音に反応したようで皆が私に顔を向ける。
「やっとお目覚めかい?おはよう」
近くに居た与謝野さんが私の肩をポンと叩いた。
その笑顔はいつも通りで、心に重くのしかかっていた物が少し軽くなる。
胸に何かが込み上げてきて、声を詰まらせていると、誰かが私に突進して抱き着いてきた。
「良かった」
黒髪を揺らして、小動物のような大きな瞳を私に向けたのは鏡花ちゃんだった。
その後ろから国木田さんが溜め息をつきながら歩いてくる。
「丸二日眠っていたのだぞ、全く。もう体調は平気か?辛いならまだ寝ていろ」
「平気、だ」
改めて、探偵社の一員で居られて良かったと思った。
やはりこの場所は暖かい。
「おはようAちゃん」
太宰さんがふらっと現れたかと思うと、優しく私の頭を撫でる。
周りを見渡しても、誰一人嫌な視線を向けてくる人は居なくて、心配が杞憂だったのだと心から安心出来た。
「おはよう、皆」
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風と衣(プロフ) - Rio*さん» ありがとうございますm(_ _)mゆっくりと休ませて頂きます!今コロナ感染も多くなっておりますので、この時期の体調の変化にはお気を付け下さい!コメントは励みになるので、嬉しかったです(*^^*) (2022年7月14日 9時) (レス) id: 11e2fd2044 (このIDを非表示/違反報告)
Rio*(プロフ) - しっかり休んでくださいね😢ご自分のペースで更新頑張ってください!! (2022年7月14日 0時) (レス) id: 31d091d700 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:風と衣 | 作成日時:2022年7月10日 0時