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頭痛と視界の歪みが気持ち悪くて頭を押えていると、太宰さんの手が肩を引っ張り、倒れる躰を太宰さんに受け止められた。
背中を預ける体勢になり、幾分か楽だ。
「やっぱり、あの男に触れないと駄目か。寝てて良いよ、Aちゃん」
触れないと駄目というのは、異能力の事だろう。
事実、毒は未だに躰を巡っているのだから。
唇を噛み、躰を前へ動かす。
「この程度でへばってなんか居られない」
太宰さんの手からすり抜けて、今度は私から男へ近付いた。
「懐かしいね〜。君は死に導く力も一級品なのにさ〜。忘れちゃ居ないよね、君自身の手で人を殺した時の事」
「っ、ど・・・・・・どこまで知ってるんだ。まるで、全部見てきたように云っているが」
三年前のあの時も、この事を知っていたのだろうか。
呼吸が乱れる。
心の中を占めていたのは、恐怖だった。
この事実を男に知られていた恐怖と、自分が殺人を犯したと、よりにもよって仲間の前で暴露された事への恐怖。
震える唇を幾ら動かしても、声など到底出てこなかった。
「怖いなら俺が君を壊してあげるさ。そうすれば、何も恐れる事なんて無いよ〜。楽になれるなら楽になりたい。人間の当然の欲求なんだからさ」
師匠の居なくなったあの時、似たような台詞を聞いた。
煮え
「それでも抗う。それがどれだけ苦しい道であろうと」
「汚れた手は戻らないのに?無駄なことだね」
「私の人生だ。人にどうこう云われる筋合いは無い。無駄だなんて君が勝手に決めるな」
男を睨むと、男は目を細めて溜め息をついた。
「そっか、残念」
男が目の前から姿を消す。
考えるより早く振り向いて短刀を振ると、金属の擦れる高い音が響いた。
「お〜、鈍ってるかと思ったけど、そうでも無さそうだね〜!」
男は懐かしい刀を握って、私へ一直線に振り下ろしていた。
今この間にも、刀越しとはいえ更にじりじりと毒に躰が侵食されていく感覚は、とても良いものでは無い。
症状が悪化していく。
距離を取ろうと動こうとしたところで、男は口を私の耳元に寄せて囁いた。
「覚悟しててね〜」
「は」
男は躰を離してひょいと窓枠に飛び乗ると、男はずっと浮かべていた笑みとは打って変わって、狂気的な笑顔を見せた。
私と同じ色をした琥珀色の瞳は光など無く、奥にぐちゃぐちゃとした歪なものがちらついている。
何故、こんなにも不安定な瞳をしているのだろう。
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風と衣(プロフ) - Rio*さん» ありがとうございますm(_ _)mゆっくりと休ませて頂きます!今コロナ感染も多くなっておりますので、この時期の体調の変化にはお気を付け下さい!コメントは励みになるので、嬉しかったです(*^^*) (2022年7月14日 9時) (レス) id: 11e2fd2044 (このIDを非表示/違反報告)
Rio*(プロフ) - しっかり休んでくださいね😢ご自分のペースで更新頑張ってください!! (2022年7月14日 0時) (レス) id: 31d091d700 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:風と衣 | 作成日時:2022年7月10日 0時