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毒によって揺れる景色の中で、がむしゃらに目の前の躰を押す。男が数歩後ろに動くと、支えを失った
額からだらだらと汗が流れて、半ば咳き込むような荒い息と共に雫が落ちる。
長い時間男に触れすぎた。
息を整えながら男を見上げると、男は丁度私の方へ手を伸ばそうとしていた。
その瞬間、銃声が響く。
その銃弾は男の頬の横を通過していき、壁に穴が空いた。
威嚇射撃か。
「これ以上Aに近付くな」
顔も上げる元気が無かったが、その後に聞こえてきた声で国木田さんだと分かった。
「どうせならAちゃんと一緒に撃って欲し——嫌だなぁ〜冗談ですって、それじゃ意味ないですもん。それにほら、あれだ。Aちゃんには俺の処に来て欲しいですし。あれ、そんなに睨まないで下さいよ〜」
何故だろう、国木田さんの顔は見れないが、この場の空気が余計に凍り始めた。
もともとマイナスであったというのに。
「あ、それと」
突然男が一歩後ろに下がったかと思うと、白衣に隠されていた刀が引き抜かれ、銀色の線が男の背後へ向かって弧を描いた。
「おっと」
「そこのお兄さんも、近付くのは止めてくださいね〜無効化でしょ?」
男は振り向かず、笑顔とは裏腹に平坦な声で云う。
いつの間にか男の背後に回っていた太宰さんは、口元に笑みを浮かべて首を傾げた。
「私も有名人だねぇ。男となんて嫌だけど、特別に握手してあげても良いよ」
「能力の事を知っててそんな事をする程、俺は馬鹿じゃないですよ〜」
ピンと張り詰めた雰囲気の中、二人の声だけが響く。
にこやかに和やかに、だが凍死でもさせようとしているのかのような冷たい眼差しを向ける太宰さんに、見えずとも何かを感じ取ったのか、男は僅かに表情を消して答えた。
「そう、つまんないね。だけど私と話しているなんて随分と余裕そうだね、君」
男がちらりと自身の背後を見る。
そして太宰さんが云い終わるが早いか、鈍い打撃音が地面を震わせた。
男は地面を転がり、壁にぶつかる。
「かはっ・・・・・・くっ。あ、ははっ、元気そうで何よりだよ〜」
「Aちゃんは結構タフだからねぇ」
先程の打撃音は、機会を見計らって立ち上がった私が男の横腹を蹴り飛ばした音だった。
助かった。
太宰さんとの会話で一瞬男の意識が太宰さんに逸れた為、隙が出来たのだ。
だが急に動いた為、頭がグラグラとして景色が歪む。
今、ちゃんと立てているだろうか。
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風と衣(プロフ) - Rio*さん» ありがとうございますm(_ _)mゆっくりと休ませて頂きます!今コロナ感染も多くなっておりますので、この時期の体調の変化にはお気を付け下さい!コメントは励みになるので、嬉しかったです(*^^*) (2022年7月14日 9時) (レス) id: 11e2fd2044 (このIDを非表示/違反報告)
Rio*(プロフ) - しっかり休んでくださいね😢ご自分のペースで更新頑張ってください!! (2022年7月14日 0時) (レス) id: 31d091d700 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:風と衣 | 作成日時:2022年7月10日 0時