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ぽんと頭に大きな手が乗った気がして、慌てて目を開いて後ろを振り返るが、そこには当然人影など無く。
『だが、ごめんな。苦しませると分かっていたのに、”彼奴”の事をお前に任せてしまった。Aじゃないと、彼奴の孤独を埋められないと思ったんだ』
これが何かの物語なら、死者と会って話せるだろうか。
だが死者と会話が出来るなら、目で捉える事が出来るなら、人は死を嘆く事も無くなるのだろう。
だからこれはきっと気の所為だ。
夢物語のような事が、私に起こり得る筈が無い。
ましてや大事な人すら守れない私なんかに。
『何も聞こえない、よな。・・・・・・生きてるうちに云っておけば良かった。僕もAに救われた、と。今のお前は自分を責め過ぎてる』
なのにどれだけ頭で、理性で否定をしても、本能のようなものが此処に師匠が居ると訴えている。
止めてくれ。
中途半端に希望を抱かせないでくれ。
師匠がこの世に居ない事など、ちゃんと分かっているのだから。
『役目を果たさない僕の手は、涙を拭ってやる事すら出来ない。こんなに無力感を感じたのは初めてだ』
何故か感じる師匠の気配が、嬉しい筈なのに苦しい。
とうとう気が狂ってしまったのだろうか、涙も溢れて止まる事を知らないようだ。
「・・・・・・変だな。何故か、何かに包まれてる気がする。胸が暖かくなっていくんだ。どうしたんだろうな、私」
悲しい涙だった筈が、懐かしいような不思議な安心感に包まれて穏やかな涙へと変わっていく。
今は情緒不安定なのだろうか。
落ち着かなければと涙を袖で拭うと、長く座っていた腰を上げて躰をほぐす為に伸びをした。
涙こそ流れたが、此処に来る前よりもすっきりとした気分になったのが不思議だ。
「ありがとう」
そう云ったのは、本当に何となく。
そしてくるりと背を向けて、一歩踏み出すと鞄の中の携帯電話が振動して音を鳴らした。
確認してみると、どうやら中也さんからの電話のようだ。
そう云えば退勤した後にメールが来て、20歳になってお酒を飲めるようになった記念に飲みに行こうと誘われていたのだった。
気分転換に行くか。
「もしもし・・・・・・分かった、今から行く」
電話を切って鞄になおすと、再び二人の墓を眺めて「また来る」とだけ呟く。
風で揺れる草達の音を背に、『鏡世界』の鏡の中に飛び込んだ。
───
前回と今回は隠し文字があります。
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風と衣(プロフ) - Rio*さん» ありがとうございますm(_ _)mゆっくりと休ませて頂きます!今コロナ感染も多くなっておりますので、この時期の体調の変化にはお気を付け下さい!コメントは励みになるので、嬉しかったです(*^^*) (2022年7月14日 9時) (レス) id: 11e2fd2044 (このIDを非表示/違反報告)
Rio*(プロフ) - しっかり休んでくださいね😢ご自分のペースで更新頑張ってください!! (2022年7月14日 0時) (レス) id: 31d091d700 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:風と衣 | 作成日時:2022年7月10日 0時