・(過去編) ページ24
「まだ、俺を殺そうとはしてこないんだね」
男が立ち止まった瞬間にふわりと風が巻き起こり、周りの砂がパラパラと飛んでいく。
耳元でボソリと呟かれた言葉の意図を掴めず、Aは無言でちらりと男を
「困ったものだね〜。殺意は、君に無くてはならないのに。君は人を死へ導く為に産まれてきたようなものだよ。ちゃんと役目は果たさないと、ね?」
人形のように動かず無言を貫くAに、男は云い聞かせるように穏やかな口調で語りかける。
風が翠髪を揺らす音が、やけに響いて聞こえた。
「堕ちてしまえば辛い事なんて考える必要ないんだよ〜。何もかも壊して、楽になれる。どちらにしろ、一度汚れた手は戻らないんだから」
人を殺した事実が覆る事は無い。
そんな事、Aは十分過ぎる程分かっていた。
どれだけ悪夢を見ても、気持ち悪さに吐き気がしても、変わらない。
いくら善行を積み重ねても、その事実は鉛のように一生付き纏う。
——殺したくて殺した訳じゃない。
ならば何故、師匠の手を取る前にわざわざ男達を殺しに行ったのだ。
云い訳なんてものにも意味が無い事は分かっているのに、反射的に浮かぶ云い訳と自責の言葉にも吐き気がして、Aは顔を顰めた。
「分かっている。だからこそ、堕ちるくらいなら楽など求めない。苦しいのなら、それは私が受けるべき罰だ」
そう話すAの瞳には、無表情ながらも確かに優しい光が灯っていた。
似ているようで、正反対の輝きを持つ琥珀色の瞳がぶつかる。
それを合図に、肌を突き刺す鋭い空気が波紋のように広がった。
地面を蹴る音と甲高い金属音が響き、踊るように戦闘を繰り広げる。
だがそんな軽やかな動きとは反対に、二人の額には脂汗が浮かんでいた。
「初めからこうすれば良かったんだね〜!本気で殺しにかかるなら、君も俺を殺しに掛からざるを得ない。殺し合いなんて、最高に俺らしいよ」
男が奥歯を噛みながらも、にやりと笑みを浮かべる。
確かに今、男の殺意と比例するように、Aの動きは容赦のないものになっていた。
少しでも手を緩めればすぐに殺される事くらい目に見えているのだ。
金属の擦れる音、互いの息遣い、地面を踏み締める音。
それをBGMに行われる、攻撃の先読み合戦。
隙の無い、要らない動きを徹底的に取り除いた洗練された動きは、両者の実力を大いに表している。
その様子は、これが戦闘だという事を忘れてしまいそうな程、美しくも激しいものだった。
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風と衣(プロフ) - Rio*さん» ありがとうございますm(_ _)mゆっくりと休ませて頂きます!今コロナ感染も多くなっておりますので、この時期の体調の変化にはお気を付け下さい!コメントは励みになるので、嬉しかったです(*^^*) (2022年7月14日 9時) (レス) id: 11e2fd2044 (このIDを非表示/違反報告)
Rio*(プロフ) - しっかり休んでくださいね😢ご自分のペースで更新頑張ってください!! (2022年7月14日 0時) (レス) id: 31d091d700 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:風と衣 | 作成日時:2022年7月10日 0時