第十話 ページ10
「え、と、もうすぐお昼ですね!」
話しながらAは、どう考えても正常の範囲を越えている心拍数を無理矢理落ちつける。
時透はというと、何をいきなりと言いたげにきょとんとしていた。
「え? ああ、そうだね。」
「お昼ご飯っ! 用意してきます!」
ほとんど叫ぶようにそう言って、Aは廊下を早足で歩く。
台所に入って、一つため息をついた。
初めて見た、彼の笑顔。
日の光を浴びて煌めく瞳は、なお一層綺麗に思えた。
その姿はAの深いところに刻まれて、内側から熱を放つ。
Aにとって時透が、段々と特別な存在となっていく。
(時透様って笑うんだ、意外………。いや失礼かなそれは。)
あれは、ほんのわずかにでも自分に心を開いてくれたということなのか。
(そうだったら、嬉しい。)
-
「何してるの? 野菜片手に笑って。」
気が付くと母が来ていて、不思議そうな顔でAを見ていた。
母にもわかってしまうくらい、喜びが溢れていたらしい。
無意識に上がっていた口角を、Aは意識して下げるように努めた。
(野菜相手にニヤニヤしてるのは絵面的にちょっと…………いやかなりヤバい。)
今は野菜を切ることに集中しようと、割烹着に袖を通した。
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作者名:夢見草 | 作成日時:2021年1月2日 15時