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第三話 ページ3

「早く手当てした方がいいと思うけど、それ。」




そう言われて初めて、Aは自分が血だらけで座り込んでいたことに気が付いた。




思い出したように、傷が痛み出す。




絵の具で塗られたように真っ赤な地面に、一瞬意識が飛んだ。




「この近くに建物とかある? 君知らない?」




激痛に顔を歪めながら圧迫止血を試みていると、彼がそうAに言った。




近く、と言われると疑問だが、ここからだと自身の家が一番近い。




「それなら、私の家でしょうか………。南の方角に進んだ、藤の花の家紋の家です。」



「藤の花の?」




すると、ずっと変わらなかった彼の表情に、少しだけ驚きの色が浮かんだ。




興味無さげに曇っていた瞳が、ほんのわずかに揺れる。




(………何? 私、何か変な事言った?)




Aはなぜ驚かれているのかわからないまま、彼の顔をじっと見上げていた。




「それなのに、夜は鬼が出るって知らなかったの。」




藤の花の家なのに、と。





その言葉で何を驚かれているのか理解したAは、後ろめたさに下を向いた。




「………いえ。知って、ました。」







『夜は人喰い鬼が出て、人をさらって食べるのよ。』




『夜は絶対に外に出るな。わかったな、A。』






幼い頃からずっと言われ続けてきたこと。





『わかってるよ。』






いつもそう、返事をしてきたのに。





「鬼のことも俺たちのことも知ってて夜出歩くとか、おかしいんじゃないの。」



「……すみません。」




その通りだ。




彼の言っていることは尤もで、何も言い返すことなどできない。




俯いているAのそばに黙って立っていた少年は、しばらくして静かに片膝をついた。




Aに背を向ける形で、ほら、とAを催促する。




「乗って。」



「え?」



どうやら背中に乗れと言われているらしいと気が付くまで、少し時間を要した。




「え、何で、」



「その出血量じゃ立てないでしょ。僕も君の家に用があるし。」



「用?」



彼は黙って頷くと、いつの間にか夜闇に紛れていた鴉に目をやる。




それを察してか、鴉が休息、休息ヨ!と鳴いた。




「ほら、早くして。」



「……すみません。ありがとうございます。」




本当は遠慮するべきだったのだろうが、Aは今、彼の言うように立つことすらままならない。




意外と優しい彼の、意外と大きいその背中に、Aはそっと手を伸ばした。

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作者名:夢見草 | 作成日時:2021年1月2日 15時

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