第十八話 ページ18
最後は、笑顔で見送りたい。
ぐっと唇を結んでいたAの頭に、その時そっと、温かい手が乗せられた。
「バレバレなんだよ、A。」
(…………え?)
Aが顔を上げると、ふわりと顔を綻ばせる時透がいた。
「この間からずっと、無理してたでしょ。」
知ってるんだよ、と言う時透。
「無理やり笑おうとしてたことも、昨日ずっと泣きそうだったことも。」
全部知ってるんだよ。
時透は言いながら、Aの頭を撫でた。
「無理しないでよ。僕、Aの笑った顔が好きだけど、Aが僕のために泣いてくれるの嬉しいよ。」
ありがとうと、今日何度目かの感謝の言葉を呟いた。
(…………バレバレ、か。私わかりやすいのかなぁ。)
残り少ない時間を、笑って過ごしたい。
幸せな思い出だったと、笑顔で話せるようになりたい。
だから昨日はいつも以上に、笑顔を絶やさないように気をつけた。
(逆効果だったなぁ。)
これまでの反動のように、寂しさが押し寄せて。
悲しみが深くなって。
涙を堪えるのが精一杯で、Aは黙り込んでいた。
「ねぇ、A、」
その時、時透が静かな声色で、Aに言う。
「好きだよ。」
時が止まったような気さえした。
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作者名:夢見草 | 作成日時:2021年1月2日 15時