第十五話 ページ15
「明日ですね、復帰。」
「うん。」
しんみりとお茶をすするAは、隣に座る時透に呼び掛けた。
「時透さん、折り紙しましょう。」
「何で急に？」
この若干脈絡のない会話も、最後だと思うと名残惜しい。
Aは彼がここを出ると決まった日から、時透につきまとってやると言わんばかりに構い倒している。
そして今日も今日とて、時透の隣でお茶を飲んでいた。
「いいけど。」
毎日しつこく話しかけるAに始めこそ驚いていたものの、もう慣れた様子の時透。
Aはいつの間にか持っていた紙を彼に見せながら言った。
「時透さん何か折れますか？ 私折り紙やったことないんですよね。」
「じゃあ何でそんなに買ったの？」
雑多に置かれた折り紙の山に、時透は呆れたように言う。
「綺麗だったのでつい。」
一番上に積んであった紙を時透に手渡して、Aは楽しそうに笑いかけた。
「どうぞ！」
「うん。」
テンションの差の激しい二人は、そろって紙を折り始める。
とは言っても一つも折り方を知らないAは、今にも紙くずを生み出しそうなほど
(あれ、何だろこれ。鶴くらいなら作れるかと思ったんだけど。)
ゴミを作ってしまった。
早々に諦めた折り紙を横目に、Aは時透に尋ねる。
「時透さんは何作ってるんですか？」
「ああ、うん。」
(………何が？)
首を傾げつつ、噛み合わない会話にもう慣れてきてもいた。
まだ傷痕の残る手を器用に動かして折り進める時透は、完成したそれを少し掲げてみせる。
「紙飛行機ですね！」
「そうだね。」
「飛ばしてみてくださいよ！」
時透の塩対応なんて何のその、身を乗り出すようにそうせがむA。
いつにもまして笑顔なAに、時透も自然と笑顔を向けた。
「いいよ。」
そんな彼の表情に、ふと泣きそうになるのを必死で堪えた。
楽しい時間を過ごすほど、別れがつらくなる。
わかっていても、もう二度と会えないだろう彼との思い出を、最後に心に閉じ込めておきたかった。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 8人がお気に入り
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：夢見草 | 作成日時：2021年1月2日 15時
