第十四話 ページ14
「顔色悪いけど大丈夫？」
急に顔を覗き込まれて、Aは慌てて笑顔をつくった。
「何でもないです。怪我が治って良かった。」
心の内の暗い濁りを感じさせないほど、スラスラと言葉が出てくる。
思ってもいない、祝福の言葉。
(駄目だこんなの。ずっと治らなかったらいいのになんて。)
「大丈夫そうじゃないけど。どうしたの？」
身体を固くしたままのAに、時透は尋ねる。
彼の瞳に映る自分の顔は、やけに強張っていた。
これ以上、優しくされるのが怖い。
離れがたくなるのが怖い。
これ以上、彼を好きになってしまうのが、
(怖い。)
「すみません。私ちょっと変で………。」
そう言って心を押し殺しながら、Aは無理やりに笑った。
そんなAの言葉に、何故かああと納得したような顔でいる時透。
「確かに変だなぁとは思うけど、」
「えっ、」
できるだけいつも通りにと努めたつもりだったAは、小さく驚いた声をあげる。
"変だ"と時透にはっきり断言されたAは、困惑して聞き返した。
「変ですか私………？ 」
「自分で言っといて何言ってるの。やっぱり変だね。」
(………自分では普通だと思ってたんだけど。)
もしかすると、そのいつも通りが変なのだろうか。
彼の言葉に一喜一憂したり、野菜と戯れながら思い出し笑いをしたり、好きなお菓子が砂にまみれて泣き崩れたり。
(私だけ？ 皆そんなことしないの？)
先ほどまでの暗い気分はどこへやら、混乱し始めるA。
そして、意外とぐさりとくる言葉をAに言ってのけた時透は、
「まぁそこが面白いし。僕はいいと思うよ。」
ふわりと、Aに笑いかけた。
-
ドゴン！！
「………え、すごい音したけど………大丈夫？」
Aは流れるように壁に頭を打ち付けた。
「いえ大丈夫です。ちょっと動揺して。」
「何で？ 怪我は？」
「本当に大丈夫ですごめんなさい。」
壁にもたれながらAは悶絶する。
へぇ、とよくわかっていなさそうな相づちを時透は打った。
「やっぱり変だね。」
そう言ってまた笑った時透の笑顔が、どうしようもなく好きだとAは思った。
-
「A見てると飽きないや。」
(ヤバい、壁か頭どっちか割れてるこれは。)
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作者名：夢見草 | 作成日時：2021年1月2日 15時
