第十一話 ページ11
「今日は少し肌寒いですねぇ。時透様。」
「うん。」
昨日、あれから特に何事もなく過ごし。
あったことと言えば、縁側に置き忘れた饅頭が砂にまみれたことくらいだろうか。
(あれは悲しい………。中の餡だけでも食べれば良かったかな。)
そんなAが、惜しいこし餡を無くしたと嘆き歩いていたところ。
偶然時透と出くわし、今に至る。
「でもこうしてお日さまを浴びてると眠くなりますねぇ。」
「そうだね。」
相変わらずの時透との会話。
時透の相槌で『うん』『そうだね』以外の言葉を、Aは聞いたことがない気がする
(私の話が異常につまらないのか、時透様に人の話を聞く気が一切ないのか。)
それでも一応は相槌を打ってくれるところ、Aに全く興味がないわけでもなさそうだ。
_
「Aはさ、寝てるときに夢って見る？」
(……………？)
突然の話題転換に、Aはきょとんと首を傾げた。
今のAの心情を表すとすれば、『何故？』の一言につきる。
話が続いたと思ったら突然の変化球。
きっと本人には何らかの脈絡があってのことなのだろうが、他人にとっては意味不明以外の何ものでもない。
「夢、ですか。」
「うん。僕は昨日見たんだけど。」
時透は太陽の光に目を細めながら、ゆっくりと言った。
「もう忘れちゃったけど、昔の夢だった気がする。」
二人の間を、さあっと風が吹き抜ける。
お互いの長い髪が絡み合い、そしてほどけていくさまをAは何とはなしに眺めていた。
「思い出せそうですか？」
「まだ無理だけど…………、」
話しながら時透は、ずっと空に向けられていた目をふとAに移した。
「君といると、たまに思い出せるんだよね。」
「私………？」
「そうだよ。」
驚いて、一瞬息が止まった。
時透にとっては、きっと何気ない一言。
けれどその一言が、Aにこう告げた。
彼のそばにいても良いのだと、彼は自分がそばにいることを望んでくれているのだと。
そう感じずにはいられなかった。
(って、自意識過剰かな。)
そう思いながらも、Aの頬は自然と綻んでいた。
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作者名：夢見草 | 作成日時：2021年1月2日 15時
