No.07 ページ7
「雛センパイっ!」
だんだんだんっ、と激しく玄関のドアが叩かれる。
1階はやはり、研究室しか使っていなかったので、埃っぽかった。
雛にはぐちゃぐちゃで汚いから、と言って、貴だけが上に来た。
使っていないからぐちゃぐちゃな訳は無いのだが。
また少し嘘が積み重なっていく、罪の意識が彼の心をつき、と痛ませた。
ドアの磨りガラスの向こう側に人影が見える。
黒っぽい服装に、菅で出来た笠の様なものを被っている。
貴は何だか緊張して、白いニット帽をしっかりと被った。
「はい」
がちゃり、と3年間使っていなかった扉を開ける。
青空と、古びた家と、がらくたがごちゃりと積み上げられた様が
四角くドアに切り取られて見えた。
「あのっ、すいません、ここに雛センパイは居ませんか?」
どぎまぎとした様子で笠を取った少年は下がり眉を更に曲げた。
センパイ、と呼んでいるから、きっと雛の後輩で知り合いなんだろう。
それに3年間でこの水彩町がどうなったかも知りたかったので、
貴は菅笠の少年を家に入れる事にした。
「うん、居るよ。呼んでくるからちょっと待っててね、汚いけど上がって」
「あっ、はい、ありがとうございます!」
そういえばこの家、知らずに住んでたけど、一体何処なんだろう。
微妙に意味の通じない日本語の羅列が、頭の中をぐるぐると這う。
僅かな記憶を辿り、少年をダイニングテーブルへ導き、
側にあったキッチンで紅茶を沸かそうとしたら、少年に
あ、僕紅茶飲めないんです、すいません!と謝られた。
蛇口を捻ると水が出た。安心した、ここにはもう少し住める。
「じゃあ、呼んでくるからね、ぐちゃぐちゃで本当にごめんね」
「あっもう全然大丈夫ですぅ!早く言って下さぁい!」
にこにこと眩しく笑っているが、絶対に「早くしろ!」と思っている顔だった。
貴は少年の名前も聞かず、さこさこと地下に行った。
「雛、多分君の後輩。行こう」
貴が窓の外を眺める雛の手を取ると、彼女は少しだけ顔を
強張らせ、貴に話しかけた。
「もしかしてその子、菅で編んだ笠を被ってる?」
「何で分かった?」
貴がそう答えると、雛は首を思い切り振りだした。
「止めて、ひよは行かない!恐いもん!」
様子が可笑しい。何か少年と嫌な過去でもあったのだろうか。
知りたい、もっと深くまで
駄々を捏ねる雛を引きずってでも、貴は彼女を上に連れていく事にした。
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