No.０３ ページ3
「雛のコエ、もうイッカイ、キきたい」
こひゅう、と空気の漏れる音と一緒に、そんな事が聞こえた。
暗くなった病室で、雛は死にかけの貴の声を聞いた。
「ひよの、コエ？」
雛は走って貴の元へ駆け寄った。
貴の鼓動は雛と一致するまでになっていた。
「１日でこんなに回復したんだ…凄いなぁ」
雛は眼を細めて笑った。
貴もつられて笑った。
「良いよ、この声なら幾らでも聞かせたげる」
貴の心がふわりと温まり、軽く浮き上がった。
身体に繋がった全ての管を退けて、今すぐに
雛に抱きつきたいぐらいだった。
今日はずっと側に居てくれてありがとう。
そう言いたかった。伝えたかった。
「ハズしてあげてクダさい、このクダ、ゼンブ」
雛は通りかかった看護婦さんにそう言った。
看護婦さんは不思議そうな顔をして言った。
「本当に良いんですか？」
駄目に決まってる！貴はそう言いたかったが、無理だった。
さっき雛にかけた声で精一杯だったのだ。
貴の体力ももう限界だった。
状況を読めない。
雛が何故そんな事を口走ったのかも判らない。
判りたくない。
ストレスでどんどん鼓動が早くなっていく。
貴は荒い息遣いのまま、雛を見上げた。
そこには飄々とした彼女の姿。
「もうカアイソウです。コロしてあげてクダさい」
貴の意識が途切れた。
多分、管を取られたのだろう。
身体は少し軽くなったが、心は依然として重いままだった。
それからは分からない。
気が付いたら自宅の地下に雛を閉じ込め、
薬の研究だと言って彼女にあらゆる方法で毒を盛る。
「何時からそんな自分に？」
白衣に着いた青緑の液体を拭い、舌に擦り付ける。
生憎、それはただの絵の具だった。
「シにたい！シにたい、コロしてくれぇぇえ！」
貴は頭を抱え叫んだ。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 1人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
