スイサイドリーム (ページ16)

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No.１６ページ16

「はい、シュクセイ」

貴が手を叩いた。

男子高校生にしてはやや高めの声で、なるべくあざとく、
出来るだけ可愛く。

「うんうん、貴くんは雛が女子だってバレない様にそうやって
女子っぽく振る舞ってねー」

「でもこれじゃ雛の方が男子っぽくなるね」

「うっさい黙れし」

「雛センパイ頑張って下さーい！」

雛は遠回りに貶してくる貴の言葉を避け、
やっとセンパイ、と呼ぶのに慣れてきた後輩に手を振り、
いちごオレを啜る楓を睨み付けながら筋トレに励んでいた。

男っぽく見せる為ー、と楓がにやりと笑った時、
雛の背中に悪寒が走った。

雛は運動がとても苦手だった。
どれくらいかと言われると、決まって

「もう爆発するぐらい、地球ごと」

と、返すぐらいだった。

その雛が今は真面目に筋トレをしている。

真面目な顔で３キロのダンベルを持ち上げたり下ろしたりする
彼女を写真に収めながら、貴は溜め息を吐いた。

貴は雛と違い、とても運動が得意だった。

「貴、今日も良い動きだったな！」

「かっこよかったよー！明日も頑張ってね！」

、とクラスメイトから褒められる日々。

正直うんざりだった。

いちいち「ありがとう」とか、「そんな事無いよ」とか、
少し微笑んで返さないといけないのが面倒だった。

気持ち悪いから。阿呆みたい。

彼はクラスメイト達に囲まれている時、いつもそんな事を思っていた。

しかし、学校の３階から見下ろした雛の運動音痴さには舌を巻いた。

まだ運動出来て良かったなあ、と。

クラスメイトから笑いや雑言を浴びせられ、投げ付けられ、
唇を噛みながら涙で眼を潤ませた彼女を見ていると、
心に靄が掛かった様になり、気分が悪くなる。

「貴センパイ？」

笠の汚れを拭いていた聖に声を掛けられ、回想の世界から現実に戻る。

目の前で楓と喋りながら苦しそうに腹筋を鍛える雛を見ていると、
変わったなあ、雛も、と自分が親に成ったかの様に染々と思った。

でも、何だか寂しく思えた。

「貴ぁ！数学教えろー！」

と、せがんできた雛の姿はもう見れないだろうから。

貴センセー、と幼い子供の様に上着をふさふさと擦る
雛はもう居ないだろうから。

貴は本日おそらく４回目の溜め息を吐いた。