No.02 ページ2
「ハズしてあげてクダさい」
何を思ったかあの日、雛はそんな事を言っていた。
ただ、私は貴の事を助けたいだけだったのに。
その重そうな身体を軽くして、抱き付いてあげたかったのに。
それだけでは無く、その後の言葉はあんなに続けてしまった事にも
重い責任の様なものを感じていた。いや、今も感じている。感じ続けている。
それを覚えているのは雛だけの様だった。
あの日。
今は変わり果ててしまった友人の貴は生死の際どい縁をさまよっていた。
雛はベッドに横たわる貴を見下ろして涙を流した。
貴と雛は受験生だった。
駅で受験番号を確認するために出した受験票が風で飛んで
ホームに落ちかけた。
「あ、美しい」
雛は何故か眼を輝かせ、受験票を追いかけた。
貴は眼を見開いて雛の背を追った。
手汗でべたべたになった掌で雛の制服の襟を掴む。
ずぱあぁぁあ
雛はすんでのところで電車に轢かれる事を免れた。
尻餅をついたままで雛は貴の姿を探す。
しかし、貴の姿は何処にも無かった。
「…貴ぁ?」
間抜けな雛の声が、がらんとした無人駅に響く。
ホームに立っているのは彼女だけだった。
まさか、と雛は身震いをした。
そして、ゆっくり、恐る恐る、線路を見下ろす。
眼が大きく見開かれ、そこから涙が溢れ出す。
そこには変わり果てた貴の姿があった。
ぴ、ぴ、ぴ、と機械が貴の鼓動を映し出す。
雛が気付いた時には、貴と彼女は病院に居た。
貴の身体には無数の管が繋がっており、
あ、これが何処かで見聞きした「スパゲッティ症候群」かぁ。
そう思った。
赤い線がぽこぽこと心臓の動きを映し出す。
大分、遅かった。
受験票を鞄から取り出す。
貴のものの様、いや、貴の血液がべたりと付いている。
赤黒い固まった液体せいで、雛の受験番号は全く見えなくなっていた。
また、雛は哭いた。
貴が眠るベッドに顔を押し付け、その涙で真っ白いシーツを濡らした。
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