コーヒー一杯分の美談 *後編* 《ars》 (ページ6)

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臆病者と白昼夢ページ6

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「……ごめん」

俺はバカだ、本当に。

そんな三文字が口から滑り出たのは、愚かな自分に気が付いてしまったから。

臆病者のくせに勝手に嫉妬して、ありもしなかった恋を作り上げた自分を省みたから。

「そんな、謝らないでください。私にとってはいい思い出ですから……先輩に恋をしていなかったら、きっと今の私はいませんから」

気を使っているわけじゃないんだろうなと思ったのは、君が幸せそうに笑ったからだった。

からんと水のグラスの中で氷が割れて音を立てた。

まだ引かない夏の日差しが陽に当たる俺の右腕を熱する。

実は俺も、君のことが気になってたんだよ。

と今俺が言ったら、君はどんな反応をするだろうか。

頭の片隅にそんな考えがよぎる。

だけど、もしかしたら信じてくれないかもなと思い直して、次の瞬間には口から出る言葉がすり替わった。

「それで、報告って？」

気になってたと告げた俺に。

先輩、相変わらず冗談が上手ですね。

なんて言って笑う後輩が思い浮かんだのは、俺がそれだけ君のことを見つめていた証拠かもしれない。

ここまで来てもまだそんなこと一つ伝えることが出来ない俺は、やっぱり臆病者だろう。

すり替えた言葉を聞いた後輩は、笑みを引っ込めて真剣な顔をした。

コーヒーカップをソーサーに下ろすカチンという小さな音がやけに俺たちの間に響く。

「あのね、先輩……私、結婚するんです」

「っ！」

さっきすり替えた言葉が喉で凍り付いた。

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