８９ Side You ページ5
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私がいるのは福島競馬場。
私は検量室前の隅で先程のレースのメモをまとめていた。同期の位置取りが良かったななどと思いながら。
「フランス行くんやって？」
顔を上げれば武岡さん。
武岡さんは今日福島で騎乗されている。
「はい。アカシの渡仏に同行させてもらいます」
チームアカシの広報としてフランスに行くことになった。
アカシと同時期に行くから1ヶ月以上日本を離れるということになる。
その間は通常業務に加え、以前アカシの記事を連載した雑誌やネット上での連載が決まっている。
「ゴッドオブウインも忘れんといてな」
「忘れてませんよ」
ゴッドオブウインも凱旋門賞参戦を決めた。鞍上はもちろん武岡さん。
アカシと同じくフォワ賞からの始動で、大変手強い相手とフランスで手合わせする。
武岡さんと話しててハッと思いつく。
「武岡さんお時間があるときでいいんですが取材させていただいていいですか？主に凱旋門についてなんですが」
武岡さんは少し思案顔をしたのち。
「ええよ。スケジュール後で見るからAちゃんの良さそうなときに」
「ありがとうございます」
「かまへんで。……そういえばフランスでは和也と一緒に住むの？」
「はい」
「あの和也がなあ」
「そうですね。あの二宮先輩がですね」
今でも思う。
あの女性にだらしがなかった先輩が私に甘いなんて。
「まあ昔から仲が良かったからな君たち。じゃあ俺はそろそろ。取材楽しみにしてる」
「ありがとうございます」
武岡さんは検量室に入っていった。
二宮先輩の話をしていたら先輩がひょっこり出てくるのではないかと感じてしまうのはやっぱり少し寂しいから。
先輩とはスカイプで連絡を取ってるけどやっぱり約1万kmの距離は遠すぎる。
しかしもう少しの辛抱だ。そして凱旋門賞まで後およそ3ヶ月。
一日一日後悔がないように過ごしたい。
顔を上げる。
次のレースの出走馬が本馬場入場していた。
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作者名：ユタカ | 作成日時：2020年4月22日 9時
