１０７ Side Sho ページ23
・
「今の状況に不満は感じないんですか？」
「それは思ってますよ。だけど僕はこの櫻井RHが大好きなんです。ここがあるからこそ今の僕がある。だから捨てるなんて出来ません」
なるべく明瞭な感じに伝える。
シンプルに考えた結果不満なんかよりもここへの愛着の方が強かった。
「じゃあ櫻井さんはずっとこのまま？」
「いや。父には自由にやらせてほしいと言ってみようと思います。あと父には父なりに楽しんでもらう方法も考えてます」
そのために潤に松本先生の近況を訊いたのだ。
俺のこの発言にさつきちゃんも武岡さんも少し驚いているようだった。
来てくれると思ったのだろう、明らかに樋口さんはショックを受けている。
しかし話はここで終わりじゃない。
「僕から樋口さんに提案したいんですが……一度こちらに来て勉強しませんか？」
「はい？」
それは当然そういう反応になるだろう。
気にしないフリをして話を進める。
「あなたの計画は何度も何度も読みました。城山グループに対抗しようとする気概は感じられます。その気合は買わなければいけません。しかし僕たちは生き物である馬を扱います。なのでそう上手くいかないというのが大前提となります。となるとその計画はあまりに壮大すぎると感じるのです」
隣でほんの小さくさつきちゃんが頷く。
これはあれを読んだ大半が思っていたことだろう。
「あなたがどの程度実のお父上の馬主業に関わってきたか分かりませんが、昨年から競馬の仕事を始めた、その時期からあなたをセリ会場で見かけたという辺りからまだまだ道半ばなのだろうと考えます。正直な話、足元を見られてると思います。なので一度ここで勉強してみませんか？うちには野々村のように優秀な社員とハングアップオンのように走る馬たちがいます」
「はあ……」
樋口さんは武岡さんに助けを求めるかのように彼に視線を向ける。
しかし武岡さんは素知らぬ顔。この人はいつも冷静沈着だ。
「樋口さんはなぜ競馬の仕事を？」
「……逆に質問させて下さい。櫻井さんは？」
・
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 95人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：ユタカ | 作成日時：2020年4月22日 9時
