３８ ページ8
・
本日の撮影が終わった。
「A、ちょっと待っててね」
雅紀くんはそう言ってどこかに電話する。
おそらく事務所だろう。
私はそれが終わるまで帰れない。
潤くんも陽南乃さんも先に帰った。
かといって他の共演者との交わりがほとんどないので一人でポツンと立っている。
「Aちゃん」
すると誰かが声をかけてきた。
「……平井さん」
顔を上げると塚本先生役の平井敏樹さんだった。
「あの輪に入ってかないの？」
あの輪というのは堀内奏たちのこと。
「いいんですよ。嫌われていますし」
「前から思ってたけどAちゃんは大人だよね。雰囲気が」
「……この世界に入って7年ですから」
雅紀くんをチラリと見るとまだ話してる。
早く終わって欲しいと思う。
私の記憶が確かなら平井さんは30近辺。
男性ファッション誌のモデルから俳優になったというよくある経歴だった気がする。
実をいうと私はこのぐらいの年の俳優さんが苦手だ。なんとなくだけど。
この平井さんの場合、自分の顔の良さと演技力をひけらかしているように感じる。
事実は事実だけど、それに驕っていたら消える役者を何人か見てきた。
「Aちゃんさ」
平井さんは私を見定めるように目を動かす。
隠れたところで鳥肌が出る。
「ちょっと来てよ」
「ちょっ……」
グイッと引っ張られる。
でも騒ぐわけにはいかないから進むしかない。
意外と人目のつかない場所が存在する。
鍵のかかってない倉庫に入れられる。
「ホント18に見えないよね」
「はあ」
「テレビで見てたときから良いなと思ってたんだけど、やっぱり他の子とはオーラが違うよね」
「あの……」
手首を持たれグイッと引き寄せられる。
反吐が出る。
「ドラマの役みたいに俺を好きになってくれる？」
顔が近い。
これセクハラで訴えれば私が勝てるよね。
「黙ってないで何か言ってよ。こっちが困るよ」
「……と言われましても」
どう動けばどう言えば相手が離れていくのか分からなかった。
「カメラの前とそれ以外では全然違うのもいいよねえ」
この状況を打破するにはどうすればいいのかばかり考えていてキスされかねない状況に体が強張った。
先生以外の人にキスされたくないと思った。
「ねえ俺のことどう思ってる？」
どうも何もと思っているとバーンと扉が開かれる音。
・
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 134人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：ユタカ | 作成日時：2018年7月18日 9時
