山裾追憶録～Lost Memories～ (ページ3)

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0話～始まりの少年～

「......」

今日で５日連続か。
さすがにここまでくると飽きてくるな。

「いつになったら止むんだ？これ......」

２月の下旬。
山の中腹に存在する地域の癖に、今年は雪が異常に少なかった。

初めてまとめて雪が降ったのは４日前。
例年毎日のように降っているのを見ているにも関わらず、
今年はクラスの連中がわーわー騒いでいたのをまだ鮮明に覚えている。

だが、その小さな騒動が終わるのは早かった。
思いっきり雪が降ったのはいいのだが、
一向に止む気配がない。

......持久走が嫌いな男子は、相変わらず「恵みの雪」だの「ユキガミサマ」だの何だの言ってるようだが。
まあ運動場は使えないんだけどさ。

果ては休み時間になる度に窓に崇拝する奴らまで誕生した。
何教だよ。列を作って土下座するのが最近の流行りなのか。

「うー......寒っ」

実はとっくに終学活は終わっているのだが、寒すぎて動きたくない。
帰らねばならない。だが身体が動かない。

外ではやんちゃな連中がはしゃいでいるのが聞こえる。
雪合戦でもしてるのだろうか？
こんな寒い中よくやるなぁ。

雪の多い地域に一度でも行った人間は知っていると思うが、
実際の雪は絵とかで描かれるようなふわふわなものばっかりじゃない。
積もった雪なんてほぼ氷塊だし、
とても雪合戦なんてできないと思うのだが。
当たると結構本気で痛いし。

『......』

あっ、こっちを不思議そうに見てる女子がいる。
......女子？男子の制服を着てる気がするのだが。

「どした？」
『あっ！いや、特に何も......
ただ、ちょっと気になったもので......』

そいつはあたふたしたまま続けた。

『は、早く帰らないともっと寒くなっちゃいますよ......？』
「おうマジかよ。
ありがとう。もうそろそろ帰るわ」

そう言うとそいつはわざわざ律儀に一礼し、
廊下に向かって走り出した。

「あー、廊下かなり滑るから気をつけ......」

つるっ。

『わっ！！』

そいつは俺の視界の中で、
完璧に俺が心配した通りの転倒をした。

『いたた.....』

せっかちなのか寒いのが嫌なのか、
立つとまた走り始めた。

「(何だったんだ......？)
でも帰るっていっても身体大分冷えちゃったからなー......
図書室にでも温まりに行くか」

その少年は歩み出した。
いずれ一つの歴史となる"あの出来事"へと、
誘われるように。

その少年の名は......

"紅(あか)田(た) 蕗(ふき)"。