山裾追憶録～Lost Memories～ (ページ15)

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Question-11 ページ15

11話～消える面影～

マズい！
このままだと間違いなく飲まれる！

「おい！ヤバいぞ！
濁流が流れてきてる...このままじゃ巻き込まれるぞ！」

小屋の扉を開けて外から聞こえるように叫ぶが、
望はその場から動こうとしない。
懐中電灯で照らしてみても変わらず下を向き続けている。

「(こうなったら強行手段に出るしかねえか...
！)
行くぞ！このままじゃ死...！？」

望の腕を掴んで無理矢理山を下ろうとしたが、
蕗の出した手は望の手をすり抜けて空を掻いた。

何度やっても同じだった。

「...ごめんね、蕗君。
僕は大丈夫だから、先に行って」
「...！」

望は下を向いたままそう言った。
悔しいが、こうなった以上そうするしかない。

「(...クソッ！)」

蕗は黙って小屋を出て走り始めた。
来た時よりも地面は悪いし、雨も強いがもう引き返す道はない。

迫ってくる木の倒れる音がひたすらに怖い。
どれだけ走っても同じ光景が続く。

～数分後～

「ハァ、ハァ...
ど、どんだけ続くんだよこの森...！？」

あとどれだけ進めば、山裾に戻れるだろうか？
走らなければ何も解決しないにも関わらず、頭の中では不毛な疑問が浮かんでくる。

「うわっ！
あ、危ねえ...」

無意識になりかけていた蕗は泥で足を滑らせることで現実に戻された。
そうだ、逃げることに集中しなければ。

今転んでいたら飲まれていたかもしれない。
これと"追われている"という二つの緊張感が重なり、
蕗の鼓動は確実に早くなっていた。
走り続けていたこともあり息苦しさは既に度を超えている。

...しかし、ようやくこの鬼ごっこにも終わりが見え始めた。

「(明るくなってきた...森を抜けたのか！)」

行きは全然気付かなかったが、明らかに木の量が減っている場所がある。
間違いない。"常雨の森"を抜けた。

そして雨も止んだ。
空にはほのかに赤みを帯びた太陽が輝いている。
輝きすぎて少し眩しいくらいだ。

「これなら懐中電灯要らねえな」

懐中電灯の電気を消して服に仕舞う。
これで両手自由だ。思いっきり走れる。

と思ったが、その考えも必要なかった。

「...あれって、入り口か？」

蕗の視界に映ったのは山に入った時も目にした赤い二つの柱。
...間違いない。戻ってきたんだ。

「やった...」

音も止んだし喜びたいのだが、
それよりも大きな思いが蕗の感情を支配した。

「...帰って来ないか」

あれからしばらく待ったが、
夕日が照らすこの場所に望が戻ってくることはなかった。