【歌い手】特別独立自治区 (ページ5)

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壁の外にも人が住んでいるということは小学校で教わった。
続いて中学校では、それぞれの区域を取り仕切る「マフィア」について習った。
私たちは壁の中から出られない。
出ることを許されていない。
これは、誰から教わったでもなく幼いときから誰もが知っていた当たり前のこと。
そして、もう１つの当たり前。
「民」は「マフィア」に逆らってはいけない。
「マフィア」は「民」の居住区を「戦場」としない、その代わりに「民」は公共機関を動かし、「マフィア」のために働く。
大人も子供も関係なく、黒いスーツを纏った彼らに頭を下げた。
それは、単に「マフィア」が金を持っているからという理由からだけじゃない。

17区域を取り仕切る「マフィア」は、昨日まで「Lampo Rosso」という組織だった。
「Balle bleue」。
それが、今日から17区域を取り仕切る「マフィア」の名前。
昨晩の間に「Lampo Rosso」は彼らによって崩壊に追い込まれたらしい。
これが、「民」が「マフィア」に逆らえないもう１つの理由。
拳銃、爆薬、刃物、様々な武力を行使して、「マフィア」は時々「抗争」を行う。
武器を持たない「民」が「マフィア」に喧嘩を売れば最後、待つのは残虐を極めた死のみ。
もっとも基本的に彼らは私たちの生活に干渉しようとはしないし、喧嘩を売る理由もないけど。

生き方を心得てさえいれば、至って平和なのだ。
たとえば今日の空は吸い込まれそうなくらい青いし、道端にはちゃんと四季の花々が咲くし。
普通で楽しい、平穏な世界。

「Aお姉ちゃん、向こうの廃工場でだるまさん転んだしよう！」

軽やかな声とともに背中に感じた軽い衝撃に振り返れば、数人の子供たちが大きな瞳をきらきらと輝かせて私を見上げていた。
人数の関係で少し前に16区域から17区域に移ってきた子達だ。
好奇心旺盛で、よくなついてくれる。

『廃工場？危ないよー』
「大丈夫！行こ！」
『はいはい、わかったから服引っ張らないの。伸びるでしょ？』
「はやく行こ」

ぐいぐいと引っ張られる腕に苦笑いしながら、私はわざと負けてあげよう、なんて考えていた。