【歌い手】特別独立自治区 (ページ4)

今日:3 hit、昨日:3 hit、合計:9,940 hit

#one ページ4

自分の体が他の子と違うと知ったのは、たしか４つか５つの頃だったと記憶している。
未発達だったその頃の記憶はほぼ無いに等しいが、その思い出だけは異常なほど鮮明に頭に残っている。
まだ個別の部屋は与えられておらず、同年代の子らと共同生活していた。
監督者はいるものの、基本的に自分のことは自分で、が方針の17区域の保育施設だ。
他の区域と違って厳しくルールに縛られることのなかった17区域の私たちは、自由に遊び回っていた。
あの日も、同じように。
舗装のされていない、大きな砂利がいくつも転がった道だった。
数えきれないほど通ったことのあるそこに今さら注意を払うなんて、普通無理だと思う。
前を駆けていく友達を追いかけて走り出した私は地面の上の小石につまずき、ものの見事に転んだ。
全身に衝撃を感じて、同時に左膝にかすかな電流みたいなものが一瞬、ピリッと走った。
違和感とかは不思議なほどなくて、派手に転んだものの平気そうな顔をしていたらしく、驚いていた友達も表情を緩めた。
何してんの、たしかそう言われたんだ。
私も笑ってみせて普通に立ち上がろうとして、でもその動作の途中でかくん、と左膝から力が抜けて。
同時に友達の顔が真っ青になっていくのを、訳もわからずにぼんやりと見ていた。
ふ、と左膝に目を落とすと。
真っ赤だった。
紛れもない、私自身の血で。
肉が裂け、幾つもの砂利が傷口に入り込んでいて、もしかしたら骨も見えていたかも知れない。
あとは、友達が泣きながら呼んできた大人たちに、病院に運ばれて。
砂利を取るためにブラシで傷口を擦られても、太い針で縫われても、最初の一瞬、ピリッと電流みたいなものが走るだけ。
他には「触れられている」という感覚しかなかった。
そんなことが何度かあって、そういえば、と思った。
私は、「痛み」というものを感じたことがない、と。
原因は知らない。
ただなんらかの理由で痛覚か神経かなにかが麻痺していて、「痛い」という感覚が脳まで伝わらない。
わずかに感じるピリッと走る電流みたいなものは、おそらくほとんど機能しない痛覚が必死に出している信号らしい。
痛みを感じない。
それが、私と周りの子の唯一の違い。
でも、これが私の運命を変えるなんて、思ってもみなかったんだ。