No.8 ページ8
＊
彼らの対話は続く。
「それじゃあ――この間黒瀬と探検に行った施設跡の話をしようか」
話題を振られた太刀は、そう口にした。「人工のニンゲンって、ホントにいると思うか？」とも。その目は質問というよりも、彼らの反応への好奇を示している。
剣士と佳斗は思わず互いに顔を見合わせると、当惑を含んで各々答えを口にした。その中でも「いたら面白そうじゃん！」と、特に剣士は興味があるようだった。
会話の傍らで彼らは、乱雑に盛られた大柄な肉類を気分が弾んだ様子で食している。他に冷えたグラスへ注がれた鮮やかな飲み物など、様々なものが狭く詰めて並べられたカウンターと周囲の喧騒が、日常と非日常の狭間を演出していた。――近くに座る太刀にとっては、どうでもいいことのようだったけれど。
彼らがそれらを楽しんでいると、不意に太刀は語りだした。「……異能力はストレスによる拒否反応、進化らしいね。それをニンゲンそのものの力として遺伝させたり、機械のアップデートみたいに付け足す研究をしていたみたい」
それに対して太刀は何か感じたわけでもないが、どうやら佳斗はそうではないらしい。「へぇ。えらい事する奴もおるもんやなぁ……」と、笑いながらも苦々しい顔をされる。単なる同情ではあろうが、肉を食っている時になんて話を、と内心毒づかれていてもおかしくはない。
「まァそこの資料を見た感じ、ほぼ全員の被験者が“実験継続不可”になったらしいけどな」と剣士は告げる。3年前の彼なら義憤の炎を滾らせていただろうが――今はどうだろうか？率直にも関わらず希薄な表情からはその考えを読み取れず、身を取り巻くのは慢性的な空虚。とはいえ結局、その思考する空虚さ故、ある時突如発火するのかもしれないが。
「アンタら、ようそないなトコまで探検に行くな。俺には理解できへんわ」と、すっかり引き気味の佳斗がふと零した。
「はぁー！？いーだろ別に！立ち入り禁止って面白そうだし……今回は白瀬も行きたいって言ってたしな！」
「なっ！」と肩を掴まれ、途端に二人の視線が集まる。輝いた剣士の片目と、鈍くぼんやりとした太刀の片目は、同じ色でもひどく対照的だ。僅かな間の後「あぁ、そうだね」と短く答えて、視線を空になったラムネ瓶に移した。透明なビー玉が煌めいている。
「は？ホンマかいそれ……ちゅうか黒瀬、お前いち企業のトップやで？そんなんで――」
「あー！はいはい！親父、唐揚げおかわりー！」
「無視すんなや！聞け！」
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