追走-2 ページ21
この追いかけっこは、数分前
捕虜の少年が脱走する現場に
Aが居合わせたことから始まった
前方には少年の背中と、
少年に対峙するアルスラーン
Aのすぐ側に倒れている男性は
殿下が伴っていた護衛だろうか
何故殿下がこのような場所に…
他に護衛はいないのか?
疑問はあるが
まずはこの状況、どうするか…
殿下は少年を止めにかかっている
少年ひとり、どうにかできなくもないが
このままでは殿下にも危害が及びかねない
様子を伺い、腰の剣に手をかける
しかし、それに気付いた少年は
くるりと此方へ向きなおると
Aから子供を奪い
その首元に剣を突き立てた
護衛のものであろう剣と人質を得た逃亡者は
尚も止めようとするアルスラーンに人質を変え
襟首を引っ掴んで走り去っていくではないか
流石に手に負えない…
しかし今追わなくては…
『行くしかない、か…!』
悪くなっていく状況に
呆然とする訳にもいかず
近くの人間にその場を任せると
見えなくなりそうな二人を追って走り出した
---
まあ、そうして今に至るわけだが…
壁をよじ登り、
いくつもの建物を超えて行くA
下の通りを見れば
それぞれに槍やら武器を携えた兵達が
わらわらと人混みのなかを抜けて行く
目撃者から事態が伝わったのだろう
おそらく目的は同じ
捕虜の捕縛と王太子の救出か
流石、充分すぎるほどの動員だ
『うーん、これはもう私が追わなくとも
収集がつくのではないか…』
まあ、そういう訳にもいくまいが
しかし、これだけ騒ぎを起こしてしまっては
あの少年は、捕まればどうなるか想像に難くない
敗残兵を捕虜とし、奴 隷とすることを
元より、良いこととは思わないA
先を行く少年の状況を考えると
やはり、気持ちの良いものではなかった
『自由に外へ出ることさえ罪か』
彼も、その仲間もこの国の人も同じ人間だ
国が違う、崇める物が違う、思想が違う
ただそれだけのことで
分かり合えないというだけで
ないがしろにして良いものではないのに
『困ったなあ』
Aには、どうにもあの少年が
殿下に危害を加えるようには見えなかった
このまま捕まらなければ
少年は自分の国へ戻る事ができるのだ
それで良いのではないか
王都の外縁へと向かう少年を追いながらも
そうやって考えてしまう
まあ、
殿下は置いていってもらわねば困るのだが
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作者名:しゅんすけ | 作成日時:2018年6月3日 15時