3話 ページ5
「……ぇ、ねぇ!!」
『ひゃっ…………!』
まだ読んだことの無い本、というか医学書を読んでいたら急に後ろから声をかけられた
…吃驚したぁ
太「やっと気付いた。君だろう?森さんに拾って欲しいって強請った子」
少し言い方が癪に障るが事実だし何も言い返せない
彼──もとい太宰治から目を逸らさず、無言で頷いた
太「大方行く宛てがないからだろうけど…。君は惨めに強請ってまで生に執着するのかい?そんなに執着するほど命は価値がある物なのかい?」
そう聞いた時の顔は心底不思議そうで、それこそ年相応の無邪気な顔だった
…………あぁ、そうだった
この子は、太宰治はこういう人だったね
頭が良すぎるが故に命に価値を見い出せない
名探偵、江戸川乱歩の場合はご両親の教育の甲斐あってそうはならなかった様だがこの子は……いや、私達はそうじゃない
『まさか。命はいつか消える。生きるものの運命であって、絶対に逃れられない。なら、いつ死んでも同じ』
太「なら何故?」
元の世界にいた時、周りの人は口を揃えて私の事を"何でも知っている""物知りだ""天才だ"と言う
まぁもちろん例外もいたが
でも違う
私は────
『………知らないこと、分からないこと、いっぱいある』
家族間の愛も、友情も、感情も
自分が"何"かすらも
知らないし分からない
『透明にすらなりきれない』
『きっと、私には何も無い』
色で表すならきっと、私は"色彩不明"
それでもよかった
でも────
『それでも……………………自分が"何"かすら分からないまま、何も知らないまま、死にたくない』
これだけは譲らない
譲りたくない
結果、生に執着することになっても、これが私の生き方で生きる理由なのだ
言うだけ言って、手に持っていた医学書に目を戻す
太宰治はじっと、観察するように、私を見ていた
太「……………君、名前は?」
『…幸田綾』
幸田綾、か、と彼が呟いた
そして、ふわりと微笑んだ
………………ん?微笑んだ?
太「私は太宰、太宰治だ。よろしく、綾ちゃん」
……えーっと、これは気に入られたってことでいいのか………?
『宜しく………太宰君』
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作者名:朱音 | 作成日時:2020年10月11日 18時