11話 ページ13
擂鉢街は、文字通り擂り鉢状に窪んだ地形に出来た街だ
かつてここで、巨大な爆発事故があったらしい
その跡地である荒野に、表社会から弾き出された、あるいは最初から存在しないことにされた人々が集まり、造りだした、灰色の人々が住む灰色の街
官憲の目の届かない土地であるが故に、マフィアのような非合法組織にとっても何かと縁のある土地だ
私達は、その擂鉢街の下り坂を歩いていた
太「ふうん、塗装用の鍍金液を飲んでの自 殺が外国では大変人気、か……成程なあ」
太宰君は歩きながら本を読んでいた。
『それ、確か凄く痛いやつ……』
太「そうなの?………但し人気の理由は単に工業塗装業者にとって手に入りやすい薬品であるからで、決して安楽な自 殺方法ではない。飲んだ者は、生きながら内蔵を溶かされる激痛に何時間も悶えながら死ぬであろう……うえっ、綾ちゃんの言う通りだ。試さなくて良かった!」
太宰君は顔を上げ、後ろを歩いている護衛のマフィアに声をかけた。
太「ねえ、今の話知ってた?自 殺する時には気をつけてね!ええと……」
広「広津です」
太宰君には自分が指名した人の名前くらいしっかり覚えておきなさいと言いたい
広津さんは困った小型犬のような顔をして答えた
広「その……参考にさせて頂きます」
広津さんは紳士然とした外見の、壮年の男性で、頭髪は黒と白が混ざり合っている
この辺りに詳しいという理由で太宰君に指名され、道案内兼護衛の役を任されたマフィアだ
私と太宰君は十五歳の子供であり、"まだ"マフィアの外部の人間であるにも関わらず気を遣ってくださるのはやはり『銀の託宣』を持っているからだろう
他の理由もありそうだがまぁそれはいいことにする
私達は、この日の朝から聞き込みを行っていた
先代が目撃されたという情報を追って、貧民街から観光地まで
太宰君の話術は素晴らしいもので、ほとんどの人間は目撃談を話しているという自覚すらなく目撃情報を提供した
………私はほとんど記録係に徹していたけど
太「そういえば綾ちゃん、今日ほとんど喋ってないけどどうしたの?」
ほら言われると思った
『喋るの……好きじゃない。知らない人きらい』
太宰君や森さんは元々知っていたから特に抵抗はなかったが本当に何も知らない人は無理
昔は日常会話ですら理解されなかったのだから嫌にもなるだろう
太「ふーん」
返事こそ素っ気なかったものの、きっと太宰君なら判ってくれると思っている自分がいた
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作者名:朱音 | 作成日時:2020年10月11日 18時